日銀人事・安倍官邸が「手堅い一手」を打ったワケ

なぜこの2人が選ばれたのか

極めて手堅い人事

黒田総裁の続投は大方の予想どおりといったところだが、副総裁候補には日銀の雨宮正佳理事と早大の若田部昌澄教授の2名が挙げられた。一部の報道では、本田悦朗スイス大使や伊藤隆敏コロンビア大教授などが副総裁候補として囁かれていたが、政府がこのような結論を導き出したのはなぜなのか。

まず、'13年に任命された黒田総裁、中曽宏副総裁、岩田規久男副総裁の体制における政策パフォーマンスはどうだったかを確認してみよう。

金融政策におけるパフォーマンスとは、「物価の安定」と「雇用の確保」がどれほどできているかを見ればいい。

これらはそれぞれインフレ率と失業率で数値化することができるが、インフレ率と失業率の間には逆相関の関係(フィリップス関係)があることが知られている。このため、物価の安定と雇用の確保が同時に達成できない場合は物価の安定のみを目標とすることもある。

当然パフォーマンスの向上を目指すうえでは、できる限り失業率を下げつつインフレ率も低く保つというのが理想で、失業率をこれ以上下げられない水準をNAIRU(自然失業率)という。日本の場合、このNAIRUは2・5%であり、これに対応するインフレ率が2%であるため、アベノミクスにおけるインフレターゲットは2%に設定されているのだ。

これらの目標数字をベースとして黒田日銀を評価すると、インフレ率について、スタート時の'13年4月はマイナス0・7%だったが、'17年12月には1・0%と1・7ポイント改善、失業率については4・1%から2・8%まで改善した。どちらも目標には若干届いていないが、十分及第点だろう。

この実績を考えれば、黒田日銀は「3人留任」でも問題ない。現体制は財務省出身(黒田総裁)、日銀出身(中曽副総裁)、学者出身(岩田副総裁)という安定した枠で構成されていて、もし個別の事情で誰かがポストを降りたとしてもこの枠組みは壊したくないというのが政府の本音としてある。

このような理由から中曽氏の後任として日銀出身の雨宮氏、岩田氏の後釜はリフレ派学者の若田部氏という選択に至った。だから副総裁2人が代わったとしても、実質の「現状維持」と見るべきだろう。

 

国際経済において、トップ人事は非常に大きな対外的メッセージとなりえる。今年2月、FRB新議長にパウエル氏が就任した直後、利上げの機運が高まったとして一時的な世界同時株安に落ち込んだのがひとつの例だ。その観点からすれば、今回の日銀人事は国内外の政治・経済に余計な影響を与えない、きわめて堅実な人事だったといえる。

政府が手堅い人事を提案したのは、やはり今秋に控える自民党総裁選があってのことだろう。三選を目指す安倍首相としては、盟友の麻生財務相が寝返らないことを願っている。

日銀人事の草案は財務省が作り、それを官房長官と首相が採決するのが原則だ。安倍首相は、日銀人事についてはあえて争点化せずに、無難に処理しようと考えたのだろう。

『週刊現代』2018年3月10日号より

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