# 海 # 生態系・生物多様性

サンゴ礁からの警鐘 第2回:体内に「植物」が同居するサンゴ

「7割死滅」の次に待ち受けていること
山本 智之 プロフィール

世界最大の二枚貝にも共生

褐虫藻はサンゴだけでなく、二枚貝にも共生している。代表的なのがシャコガイ類だ。

サンゴ礁の海でシュノーケリングをしていると、貝殻を半開きにしたシャコガイが、色鮮やかな外套膜を殻の外へ大きく広げているようすをよく見かける。こうして海中に差し込む太陽の光を浴びることで、体内に共生する褐虫藻がさかんに光合成を行うのだ。

シャコガイは、褐虫藻が作り出した栄養を吸収するほか、褐虫藻そのものもエサにして成長するという。

沖縄県内の居酒屋では、「ヒメシャコガイ」(Tridacna crocea)の刺身が、よくメニューの一つになっている(写真5A、B)。コリコリとした食感で、独特の香りがある。私はこの刺身が好きで、沖縄に行くたびに何度も食べている。

写真5A 食用に流通するヒメシャコガイ=沖縄県那覇市の鮮魚店で、山本智之撮影
写真5B ヒメシャコガイの刺身=沖縄県那覇市の居酒屋で、山本智之撮影

ただし、ヒメシャコガイもシャコガイの仲間なので、その体内にはもちろん、褐虫藻が含まれている。つまり、シャコガイの刺身を食べるときには、大量の褐虫藻を口に入れていることになる。

ちなみに、シャコガイ類の中でも、「オオシャコガイ」(Tridacna gigas)は世界最大の二枚貝として知られ、成長すると殻の大きさが1メートルを超す(写真6)。大きな個体は、重さが200キログラム以上にもなる。

写真6 世界最大の二枚貝「オオシャコガイ」も、体内に褐虫藻を共生させている=山本智之撮影

このような巨体を維持できるのも、効率的に栄養を得られる「褐虫藻との共生」というライフスタイルのおかげだ。サンゴにしても、豪グレートバリアリーフの巨大サンゴ礁を構築する主役であることを考えると、やはり海の生物としては大成功してきたといえるだろう。

サンゴ礁の生態系は、「動物」であるサンゴと「植物」である褐虫藻の共生に支えられている部分が非常に大きい。そして、シャコガイ類以外では、ザルガイ科の「カワラガイ」(Fragum unedo)や「リュウキュウアオイ」(Corculum cardissa)などの二枚貝にも、褐虫藻が共生している。クラゲやイソギンチャク、ウミウシ、有孔虫の中にも、体内に褐虫藻をもつ種類がいる。

動物門の壁を越えて、さまざまな種類の生物が褐虫藻を利用しているというのは、実に興味深い事実である。

「微妙なバランス」が崩れるとき

サンゴと褐虫藻の共生関係は、長年の進化の中で築き上げられてきたものだ。しかし、この共生関係は、環境が変化すると崩れてしまいやすい。高水温などのストレスが加わると、サンゴの体内に共生して褐虫藻が失われ、白化現象が起きるからだ。

元気な状態のサンゴ、そして白化後──。両者はどのような姿の違いを見せるのか。琉球大学の中野義勝さんは、沖縄県・瀬底島沿岸で、同じサンゴ群体の変化を写真に記録した(写真7A、B)。

写真7A 白化する前の健康なサンゴ(クシハダミドリイシ)=琉球大学・中野義勝さん提供
写真7B 白化後の状態=琉球大学・中野義勝さん提供

濃い色をした見事なテーブル状サンゴも、褐虫藻が失われると無残な白い姿になる。健康なサンゴには、茶色や緑色などさまざまな色のバリエーションがあるが、そうした色彩は、実は体内に共生する褐虫藻によって作り出されていることがよくわかる。

サンゴは、自らの触手を使って動物プランクトンを捕まえ、食べることもできる。しかし実際には、生きていくうえで必要な栄養の大部分を、褐虫藻から得ている。このため、白化現象が長引き、褐虫藻の不在が続くと、サンゴは栄養失調に陥って死んでしまう。

第1回で詳しく紹介したように、沖縄県の石西礁湖で深刻なサンゴの白化現象が起きた2016年は、豪グレートバリアリーフでも、同様に深刻な白化現象の発生が報告されている。いずれもその引き金となったのは、高い海水温だ。

造礁サンゴは、赤道域を中心とする温暖な海に分布する。このため、暑さには強そうなイメージをもっている人も多いだろう。

しかし実際には、サンゴの生息に適した海水の温度帯の幅は、意外に狭い。白化が起こる環境条件は、サンゴの種類や海域によっても異なるが、石西礁湖の場合では、水温が30℃を超すと白化のリスクが急速に高まってしまう。

サンゴの白化現象を招くストレス要因としては、高い水温や強い日差しのほか、淡水や土砂の流入、農薬による海の汚染、バクテリアなどが指摘されており、記録的な寒波も引き金になることが知られている。

透明で美しい海、そして、低すぎず高すぎない水温──。

微妙なバランスが成り立って初めて、サンゴの生息が可能になる。こうした自然の秩序が崩れ、死の危機に直面したとき、サンゴが身をもって発するシグナル。それが、白化現象なのである。(次回に続く)

本記事著者の新刊、近日刊行!!

温暖化で日本の海に何が起こるのか 水面下で変わりゆく海の生態系

地球温暖化・海洋酸性化で日本近海はどう変わるのか? 「未来の海」が教える、魚介類に起こるおどろきの変化とは?

  • プロローグ──「未来の海水」が教えてくれること
  • 第1章「美ら海」からの警鐘──変貌する「海の熱帯雨林」
  • 第2章 日本近海で生じつつある「異変」──北上する生き物たち
  • 第3章 食卓から「四季」が消える──春のサワラから秋のサンマ、冬のカキ・フグまで
  • 第4章 海洋生態系を脅かす「もう一つの難題」──「酸性化」が引き起こすこと
  • 第5章 どうなる? 未来のお寿司屋さん──マグロやホタテ、アワビやノリも食べられなくなる!

amazonで予約受付中