偶然ランチにきた大手ノベルティ会社で営業をしている女性が、店のコンセプトに共鳴して、「子供食堂を開催する時に余ったノベルティを配らせてもらえないか」と提案いただき、後日、上司の方と一緒に大量のノベルティを運んできたことも。
翌月の子ども食堂の時、くじを作って子供たちに配ったら、すごく喜んでもらえました。
突然、交流のなかった子供食堂からも連絡が来たこともありました。なんだろうと思ったら「お米が40kgあるが、いりませんか」と。話を聞くと自宅近くの子ども食堂だったので、ありがたくいただきました。
こんなに暖かい人たちがごく身近にいたことを知ることが出来たのも、この店を始めた大きな収穫と言えるかも知れません。
何より、うれしいのはお客さん同士のコミュニティが生まれてきたことです。
お母さんたちは、保育園や小学校で他のお母さんたちと知り合いにはなることが多いのですが、そうして関係では本音で付き合えるとは限りません。
たとえば、離婚など個人的なことは、同じ小学校のお母さんたちには内緒にしていたいことも多いでしょう。それで誰にもそういった個人的な話を聞いてもらえず、一人思い悩んで鬱になったりする例もあると聞きます。
ところが、うちの店でときどき顔を合わせるうちに親しくなった、という関係性の中でなら、詳しい素性をお互いが知らないため、かえって腹を割った話ができる。そこで何かが解決しなくても、腹に溜まっていることを吐き出すことで、「今日はすっきりしたわ」と笑顔で帰っていける。そんな姿を見るのは、何よりうれしい瞬間です。
お父さんが子供と一緒に来てくれることも増えました。
先日も、たまたま子供一人と父親という3組が同席したことがあったのですが、店内にある黒板で一人の子供が落書きを始めると、別の少し年長の子供が小さな子供に絵の描き方を教え始めたのです。
それを見たお父さんが、帰りにこう言っていっていました。「週末に子供と出かけることはあっても、うちの子がよその子と遊んでいる姿を見たことがなかったことに気づきました。しかも、年下の子の面倒見ている姿にも驚いたし、とても誇らしい気持ちになった」と。
こうしたリアクションは、開店前にはまったく予想もしなかったことだけに、私としてもうれしい驚きです。
今までになかったジャンルのお店ですから、なかなか理解されずに寂しい気持ちになったこともありました。店の前をお爺さんが「子供と一緒にバーなんてケシカラン」と捨てゼリフを吐きながら歩き去っていったり、郵便局に宣伝チラシを置いて貰おうとしたら「子供をバーに連れて行くなんて」と審査に落ちたこともありました。
正直、そんな時は世間の冷たさを感じるものです。
だからといって、「子供と、カフェ」にすればいいかと言えば、それでは意味がない。カフェでママたちが自然食をナイフとフォークでおしとやかに食べているだけでは、本当の悩みや肚を割った話はできない。心に溜まったものを吐き出すためには、バーじゃないとダメだと思うのです。
もちろん、今のお店が完璧だとは思っていません。むしろまだまた発展途上ですし、進化できる要素は多く残っています。
最近はランチにご高齢の方が夫婦で来店されることも増え、昼間からワインなどを飲んでゆっくりと時間を過ごしていただいています。あれを見て、もしかするとお年寄りにもバーは必要なのかもと考えはじめました。そのうち店名も「子供と、ばあば」になっているかもしれません。
お子さんといらしたお父さんから、「こどモスコミュール」や「こどモヒート」などの子供用のカクテルを作ったらどうか提案をもらったり、通りすがりの犬の散歩をされていた方に、「店の前にテーブルを出して、ペット連れでお酒が飲めるのもいいんじゃない?」とアドバイスもいただいたこともあります。
時間帯によって来る子供の年齢が違うので提供する料理も変わるべきだし、お父さん向けにはメタボ対策も必要かも知れません。とにかくやるべきこと、やりたいことが次から次に出てくるのです。だから、それをこれからやって行く予定です。
少しずつ、少しずつ。昼も夜も。私の絵の描き方がそうでした。端から見たら行き当たりバッタリで、描いては消し、描いては消し。無駄がいっぱいの描き方でした。
この「子供と、BAR 」もそんな無駄がいっぱいの造り方に良く似ています。恐らく私にはそういうやり方しかできないのでしょう。
ビジネス的なことを言えば、採算は少しずつよくなっていますが、当分夜の営業時間は自分で店に立つことになるでしょう。不動産業との二足のわらじは正直大変ですが、やめるつもりはありません。だって、お店の進化を見るのは楽しいから。
まだまだ未完成ですが、いつか世界に一つしかない楽しい親子バーを造ります。是非、一度いらしてください。
では、ごくごく近い未来に、大井町の小さなバーでお会いしましょう!