「福島は危険だ」というフェイクが、7年経っても県民を傷つけている

「デマ」を信じている国民がまだ半数
林 智裕 プロフィール

もちろん当事者となってしまった方の不安は察して余りあるものですし、こうした心情そのものを否定するものではありません。このような不安を感じさせられていること自体もまた、原発事故の大きな被害の1つと言えます。

しかしながら、この方にここまで強い「後悔の言葉」を紡がせた原因は、第一には原発事故であるとしても、本当にそれだけなのでしょうか。

番組放送時点よりずっと以前から、福島県民の甲状腺から見つかった嚢胞と被曝の因果関係は、多くの専門家の間で否定されていました。そもそも「A2」という判定は、従来の検査では「異常なし」とされてきたものです。こうした情報は、きちんと当事者に伝えらえていたのでしょうか。

日常生活に影響を与えず、悪化する可能性も極めて低い「異常」は、人間誰しも多かれ少なかれ持っています。これまでになく検査対象を広げることで、そうした異常までをもこれまでに無いほど大量に掘り起こしてしまい、当事者の心身に与える悪影響の方がむしろ大きくなってしまうこともあるのです。

 

ポジティブなニュースは報じないのに

なかでも甲状腺ガンについては、「ガン」と呼ばれていながらもこの傾向が強いと言われており、最近では過剰診断の害が強く問題視されはじめています(参考記事:「福島における甲状腺がんをめぐる議論を考える――福島の子どもをほんとうに守るために」服部美咲/フリーライター)。

もっとも、そうした被曝によるリスクを議論する以前に、先にお伝えした通り福島では外部内部共に、そもそも議論の前提となるような「懸念される量の被曝をしていない」のです。そうした状況が明らかである以上、福島に留まる判断が「誤っていた」ということは、決してありません。

そういった客観的な事実や検査の背景などの注釈もなしに、このようなコメントを放送すれば、「福島に留まっていたせいで、大量に被曝をして体に異変がおきた。避難させなかった親としての判断が間違っていた」という誤ったメッセージだけが、事実であるかのように拡散されてしまいかねません。

さらに、うがった見方をすれば、「番組側が当事者の不安を煽った上で、そうしたネガティブなコメントを『狙って取りに行った』のではないか」とも疑われてしまうのではないでしょうか。

甲状腺ガンを巡ってはテレビ朝日報道ステーションやNHKのほか、毎日新聞などでも、国連科学委員会報告書を執筆記事で全く伝えない一方で「甲状腺ガンが新たに○×人!」といったセンセーショナルな論調の報道を行ってきました。このような伝え方では同様に「福島では被曝によって甲状腺ガンが増えている」との誤解が拡がるのも当然と言えるでしょう(https://mainichi.jp/articles/20171024/k00/00m/040/113000c.amp)。

2017年10月23日「毎日新聞」記事

これらは氷山の一角であり、このような「ほのめかし報道」は、そのほかにもさまざまなメディアから繰り返されてきました。

報道機関が、すでにわかっている「事実」や「知見」を報道しないことで被害者を不安に陥れ、そうした不安にかられた被害者たちから恣意的に言葉を引き出して拡散させることは、公正な報道というよりも「マッチポンプ」というべきでしょう。

特に、NHKのような公営放送までもそれに加担したとすれば、由々しき事態です。

一方で、たとえば福島での米の全量全袋検査などのポジティブなニュースは、全国ではほとんど報道されていません。福島県産の米の全てが基準値未満であるうえ、99.99%が検出限界値にも達していないという事実どころか、そもそも検査の存在すら、国民にはほとんど知られていないとの調査もあります。

そうした恣意的な報道の積み重ねが、「福島では将来的に被曝によって健康被害が出る」との誤解が半数にも及んだ、冒頭の調査結果にも繋がっているのでしょう。

福島の「健康被害」の実情

一方で、福島での健康被害自体は多数発生しています。ただしそれは被曝そのものではなく、避難に伴う生活基盤やコミュニティの喪失が主な原因といえます。避難先での住環境の変化に伴う生活習慣病やうつ、自死の増加なども見られます。福島では、このような「震災関連死」が、他県に比べ突出して多く発生しているのです(http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-6/20170630_kanrenshi.pdf)。

復興庁サイトより

結果論ではありますが、これはつまり「避難することにも大きなリスクがあった」「被曝を原因として亡くなった方は一人もいなかったが、さまざまな要因で正しい情報が伝達されなかった、あるいは結論が保留され続けたことによって、沢山の人が亡くなっている」ということです。

もちろん、震災当時の混乱を考えればどうしようもなかった面が多々あるにせよ、これが7年経っての現実なのです。