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アマゾンの成功法則から外れた…?「アマゾンエコー」最大の弱点

欠けているのは「心地よい引き算」だ
昨年アマゾンが満を持して発売したスマートスピーカー「Amazon Echo」。豊富な「スキル(拡張機能)」も話題な同製品だが、じつはアマゾンがこれまで発売した製品の「成功法則」からは外れているのだという。
マイクロソフトでWindows 95のサービスデザインなどを手がけた中村一哉氏が、Amazon Echoのサービスデザイン上の問題点を指摘する。

知られざるアマゾンの成功法則

「このドアはどうやったら開くのか?」と迷ったことはないだろうか。押してみても、引いてみても開けられない。実はスライド式だったとか。直感的にどう開けたらいいかわからない使いにくいドアを「ノーマンドア」という。

ドン・ノーマンというデザインの研究者から名付けられている。よく、使いやすい製品は「直観的でわかりやすい」と言う。これはドアも同じことが言える。使いやすいドアはどうすれば開くのか直感的にわかる。

それはユーザー視点の「心地よい引き算」で実現される。そしてこの「心地よい引き算」は、時価総額でマイクロソフトを抜き世界3位となったアマゾンの成功法則でもある。

 

例えばワンクリック注文。この発明をアマゾンは1999年に特許取得して、真似をするバーンズ・アンド・ノーブルのような競合を裁判で訴えた。「1-Clickで今すぐ買う®️」はアマゾンの登録商標となっているくらい大事な発明だ。

eコマースでは買いたい商品をまずショッピングカートに入れる。そして、支払方法や発送先を選ぶ。ワンクリック注文はこれらのステップをすべてなくした。

購買までの数ステップをワンステップまで引き算したのがワンクリック注文だった。eコマース運営側にとってもカート破棄率(ショッピングカートに入れた後に買わない)を大幅に減らすことができる。

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このワンクリック注文が基礎になっているKindleは、ここからさらに一歩進めて、「配送」「処分」「本棚」を引き算した。Kindleで注文すれば配達されるのを待たなくていい。クリックすれば読みたい本がすぐ読める。

また、本をたくさん読む人はわかるだろうが、本は場所をとる。場所を空けるには処分しなければいけない。捨てるか古本屋に売るか。Kindleはその処分のステップと本が占有していたスペースを引き算した。

本にはコレクションとしての側面もあるので、その所有欲求まで引き算してしまう部分もあるが、メリットの方が大きいのでKindleの事業はユーザーに支持されて伸びている。

アマゾンのクラウドコンピューティング事業であるAmazon Web Service(AWS)も、「心地よい引き算」が成功要因だ。

クラウドコンピューティング以前であれば、インターネットにインスタンス(クラウドでデータを計算する部分)を公開するのは一仕事だった。まず、ハードウェアの購入と設置。OSやその他アプリケーションのインストールやセットアップ。さらにネットワークの設定など多くのステップが必要だった。

これがAWS EC2なら、数クリックでインスタンスをインターネット上に公開できる。S3であれば、数クリックでストレージ(クラウドでデータを保存する部分)ができてしまう。

2018年2月1日に発表されたアマゾンの決算報告によれば、AWSの2017年の売上は170億米ドル(約1.8兆円)だった。これはアマゾンの売上全体の10%。しかし、営業利益はすべてAWSから生まれている。つまり、2017年はAWSがなければアマゾンは赤字だったということだ。

このように、アマゾンで収益を上げるイノベーションは「引き算の法則」に従っている。逆に、アマゾンで失敗したプロジェクトには、成功法則である「心地よい引き算」がない。

アマゾンの最大の失敗の1つがFire Phoneだろう。Fire Phoneは他のスマホに比べて優れた部分もあったが、何も引き算しなかった。機能追加という足し算だけではダメなのだ。

Amazon Dashも面白い製品でワンクリック注文を一歩進めたものだ。パソコンやスマホを使わず、ボタンを押せば決まった商品が注文できる。確かに引き算はしてるのだが、心地よさは最初だけ。ずっとその製品を買い続けるのであればいいのだが、消費材は新製品が発売され、市場は常に動いている。

Amazon Dashは新しい商品と出会う楽しみまでなくしてしまっている。問題だけでなく、機会もなくしている。つまり、単に引き算すればいいのではなく、心地よさが必要なのだ。