中国がまもなく「世界最強のIT国家」になる歴史的必然性

プライバシーも独禁法もない国だから
野口 悠紀雄 プロフィール

中国政府は、ビットコインを禁止し、中央銀行による仮想通貨に強い関心を示している。ビットコインでは個人情報は集まらないが、中央銀行仮想通貨であれば集まるからだろう。 そして、中国人民銀行は、いずれ仮想通貨を発行するだろう。

拙著『入門 ビットコインとブロックチェーン』(PHPビジネス新書)で説明したとおり、中央銀行の仮想通貨は、ビットコインとはかなり異なる仕組みによって運営される。

そして、仮想通貨を発行すると、中央銀行がすべての国民と企業の経済活動を細大漏らさず把握できるようになる。

この問題があるので、欧米諸国でも日本でも、中央銀行の仮想通貨発行には、技術的に可能であっても踏み切れない。

しかし、中国では、この問題はあまり大きな障害とならないだろう。

 

中国のITが世界最強となる本質的理由

AI(人工知能)の技術開発においては、ビッグデータをどれだけ集められるかが重要だ。

それを簡単に集められる中国は、人工知能のディープラーニングにおいて、有利な立場に立つ。

中国のITにおける強さが、潤沢な資金力や優秀な人材に支えられている面は確かにある。しかし、そうしたことだけではない。

中国の特殊な社会・国家構造が、中国のIT産業に対して有利に働くのだ。

ヨーロッパの近代社会は、個人主義を前提に形成された。そして、市場経済は、独立した個人の自由な行動を基本的な社会構成原理としている。

中国という国家は、政治的には共産党の一党独裁体制であり、市場経済とは矛盾すると思われていた。

仮に一党独裁体制の下で市場経済を認めれば、汚職が蔓延して、経済は立ち行かなくなるだろうと考えられていた。そうした面があることは否定できない。

しかしIT産業について言えば、以上で述べた理由によって、中国の体制が有利になるのだ。

これまでの工業社会では、個人の自由と経済全体の発展がうまく調和できた。しかし情報産業においては、産業の発展が個人のプライバシーを犯してしまう。

ITには従来なかった特殊な規模の利益が働く。そして人口は途方もない大きさだ。IT産業は本質的な意味で中国に合っていると考えざるをえない。そのことが中国でいま実証されつつあるのだ。

しかも、アメリカでは、巨大化した企業は独禁法の問題に直面するが、中国には、その問題もない。

アメリカでは、「ITの先端分野でいずれ中国に抜かれる」という中国IT脅威論が、急速に高まっている。

グーグル元CEOのエリック・シュミット氏は2018年1月にイギリスBBCの放送で、「今後5年間は、まだアメリカがAI分野でリードしていくことができるが、すぐに中国が追いついてくる」と述べた。

また、アメリカの情報機関の高官は、「中国はAI分野でアメリカを超える可能性がある」と発言した。

これは、純粋に技術的な意味で抜かれるというよりは、以上で述べた中国の特殊性に、アメリカは対抗できないということであろう。

今や歴史の大逆転が起ころうとしている。

個人情報を握る「独裁者」が登場する

すでに述べたように、中国では、インターネットは検閲されている。 

いまは人間が行なっているので大変な作業だが、AIを利用すれば、簡単にできる。

イギリスの作家ジョージ・オーウェルは、小説『1984年』の中で、ビッグブラザーという独裁者に支配される未来社会を描いた。

しかし、ここで描かれているようなことは、実際にはありえない。なぜなら監視をするために、監視される側と同じ位の数の人間が必要になってしまうからだ。

しかしAIを用いて行えばそうした必要はなくなる。

それに加え、プロファイリングで得られた詳細な個人情報を政府が入手できれば、どうなるか?

どんな本を買い、何を検索して誰と交信したかが分かれば、思想を読める。これまでは、外部からは分からなかった政治的な思考が明らかになる。こうした詳細な個人情報を国家が得、それを個人のコントロールに用いる可能性がある。

歴史上、これほど強い権力基盤を持った支配者はいなかった。これは、ビッグブラザーを超える独裁者の出現だ。