2022.01.01

「狭心症」発作のしくみと原因から治療方法を解説

『狭心症・心筋梗塞 発作を防いで命を守る』②

狭心症が起こるしくみ

狭心症・心筋梗塞は、冠動脈という心臓の重要な血管にある病変が原因となります。

この章では、なぜ冠動脈が狭くなったり、血栓が詰まってしまうのか、そのしくみを解説します。今後、重大な発作を防ぐためにも正しい知識をもっておくことが大切です。

心臓の構造

狭心症や心筋梗塞は、冠動脈の異常によって起こります。とはいえ、冠動脈がどこにあり、どんな役割を果たしているのか知らない人も多いでしょう。その役割を知ると、発作が起こるしくみも理解できます。

冠動脈からの血液で心臓は動いている

休みなく働き続ける心臓に酸素と栄養を供給するには、大量の血液が必要です。その血液を供給しているのが「冠動脈」です。心臓表面を冠のように覆っていることから名づけられました。

心臓は筋肉のかたまり

心臓は心筋という強い筋肉でできている。1分間に60〜80回も収縮と拡張をくり返しながら、全身に血液を送り出す。この働きをするために心筋にも大量の血液が必要で、冠動脈から供給される

心臓の構造の説明右冠動脈と左冠動脈があり、さらに左冠動脈は「回旋枝」と「前下行枝」に分かれ、心臓全体に細かく張り巡らされている
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左冠動脈

上行大動脈から出て、回旋枝と前下行枝に分かれている

回旋枝

心臓の裏側に向かって延びている。主に左心房、左心室の側壁の心筋に血液を供給する

前下行枝

心臓の下方に延びている。主に心室を分ける壁(心室中隔)、左心室の前側の心筋に血液を供給

右冠動脈

主に右心房、右心室、左心室の下側の心筋に血液を供給

心臓は全身に血液を循環させる要

心臓は全身に血液を送り出していますが、そのルートには「体循環」と「肺循環」の2つがあります。心臓から送り出された血液が、この2つのルートを経て再び心臓に戻ってくるまで、わずか数十秒という速さです。

肺循環(小循環)

体循環後に戻ってきた血液は、右心房から右心室に送られ、肺動脈経由で肺に入ってガス交換が行われる。酸素と二酸化炭素を交換したのち、肺静脈から左心房に戻ってくる

心臓は拡張と収縮をくり返す

心臓は、心筋がドクンドクンと収縮と拡張をくり返して全身に血液を循環させている。これを拍動という

体循環(大循環)

左心房から左心室へ送られた血液は、大動脈を経て全身に送られる。大動脈から梢の毛細血管まで全身を巡り、細胞に酸素と栄養を供給し、代わりに二酸化炭素と老廃物を受け取って上・下大静脈から右心房に戻ってくる

心臓のポンプ機能を維持する

心臓は生命を維持するため一秒も休むことなくポンプ機能によって全身に血液を循環させています。その活動をするために、心臓そのものにも大量の血液が必要です。冠動脈は、心臓の筋肉に血液を供給するとても重要な血管です。

狭心症や心筋梗塞は冠動脈が狭くなったり、詰まったりして血液の流れが滞ることが原因で起こります。冠動脈の重要性からみて、それがどれほど危険な状態なのか理解できるでしょう。

発作のしくみ

狭心症や心筋梗塞の発作は、なんらかの原因によって冠動脈の血流が悪くなることで起こります。

血流が悪化し、必要な酸素や栄養素が不足したため心筋が悲鳴を上げているのです。

冠動脈が部分的に狭まっている

狭心症の発作は、冠動脈の一部が狭まっていたり(狭窄)、けいれんを起こして狭くなったりすることが原因です。

血流不足によって「虚血」状態になる

狭心症と心筋梗塞は、冠動脈の血流が一時的あるいは完全に途絶え、「虚血」状態になることが原因で起こります。

血流が不足すると、その先に必要な酸素が届かず、心筋が酸素不足に陥って発作が起こります。このとき心臓のポンプ機能も低下するため、息苦しさや動悸などの症状が現れるのです。

血流が途絶える原因は、冠動脈の内腔が狭くなったり、詰まったりすることです。狭くなって血流が悪くなると狭心症に、完全に詰まると心筋梗塞になり、命にかかわります。狭心症と心筋梗塞は、冠動脈が完全に詰まったかどうかの違いなのです。

発作を起こした女性発作の痛みや息苦しさは、心筋が酸欠になっているというSOSサイン

発作の原因①冠動脈がプラークで狭くなったり詰まったりする

冠動脈に狭窄が起きたり、詰まったりする最大の原因は動脈硬化です。血管が硬くなり、弾力性やしなやかさが失われた状態になることです。なかでも狭心症につながりやすいのがアテローム性動脈硬化です。

発作の原因は動脈硬化

動脈硬化には大きく分けて3つの種類がありますが、狭心症や心筋梗塞の原因になりやすいのはアテローム性動脈硬化です。冠動脈の血管壁にプラークがたまるタイプの動脈硬化で、プラークが大きくふくらむと血液の通り道が狭くなります。

①血管の内皮細胞が傷つき、コレステロールが侵入する

いわゆる悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールが血液中に増えすぎると、血管の内皮細胞が傷ついた部分からLDLコレステロールが入り込んでたまり、酸化する

②マクロファージが酸化したLDLコレステロールを取り込む

酸化したLDLコレステロールを排除しようと、免疫細胞のマクロファージが取り込んでいく。役目を終えたマクロファージが血管壁にたまる。これがプラーク(粥腫)

③プラークが厚くなり、血管が狭まる

プラークがどんどん大きくなるにつれ、血管の壁もふくらんでくる。その結果、血液の通り道が狭くなってしまう

④心筋梗塞ではプラークが破れて大きな血栓ができる

大きくふくらんだプラークが破裂すると、その傷を修復するために血小板などが急いで集まって血栓になる。この血栓が大きくなると血管内腔を完全にふさぎ、心筋梗塞が起こる

不安定プラークは膜が弱い

急性冠症候群の原因は、もろく破れやすい不安定プラークが原因。破れやすいうえ、中身もコレステロールなどの脂質が多くドロドロしている

メタボのある人は注意

動脈硬化には、メンケルベルグ型動脈硬化、細動脈硬化、アテローム性動脈硬化の三つがあります。

メンケルベルグ型動脈硬化は血管の中膜という部分にカルシウムがたまるタイプで、血管壁がもろく破れやすくなります。細動脈硬化は主に高血圧によるもので、腎臓や脳などの細い血管に起こり、破裂しやすくなるタイプです。

狭心症や心筋梗塞の原因となるのは、上図のアテローム性動脈硬化です。メタボの人をはじめ、高血圧や高血糖、脂質異常症、肥満のある人は、そうでない人よりも特にアテローム性動脈硬化が進みやすいことがわかっています。

▼メタボの診断基準

腹囲

内臓脂肪型肥満の目安となる 男性85cm以上 女性90cm以上

血糖

空腹時血糖値が110mg/dl以上

血圧

最大(収縮期)血圧が130mmHg以上、最小(拡張期)血圧が85mmHg以上の両方またはいずれか

血中脂質

中性脂肪が150mg/dl以上、HDLコレステロールが40mg/dl未満の両方またはいずれか

腹囲に加え、血糖・血圧・血中脂質の3項目のうち、2項目以上があてはまるときはメタボリックシンドロームと診断される

メタボがプラークをつくる

プラークがたまるアテローム性動脈硬化は、メタボリックシンドローム(通称メタボ)があると促されます。メタボの診断基準にあてはまる人は要注意です。

発作の原因②なんらかの影響で冠動脈がけいれんする

安静時狭心症の原因は、主に冠動脈の一過性のけいれんです。なぜ、冠動脈がけいれんするのか、くわしい理由は不明です。アテローム性動脈硬化があまりみられないため、別の影響だと考えられています。

原因は喫煙や不眠、ストレス?

冠動脈のけいれんの原因はまだわかっていません。安静時狭心症の患者さんは動脈硬化があっても軽度です。一方、喫煙者や不眠のある人に多いことから、その関連性が指摘されています。

深夜に発作が起こりやすい

冠動脈のけいれんによる安静時狭心症は、労作性狭心症のように体を動かしているときには発作は起こりません。深夜や早朝など就寝中や安静にしているときに発作が起こり、時刻もだいたい決まっています。

夜中や明け方に発作を起こして起きる男性夜中や明け方に発作で目を覚ますことが多い

心電図の検査でも特徴がある

心電図をとると、アテローム性動脈硬化による労作性狭心症では運動時にST部が下がることが多いが、けいれんによる安静時狭心症では発作時に逆にST部が上昇するパターンがよくみられる

安静時狭心症は冠れん縮が主な原因

安静時狭心症は、「冠れん縮性狭心症」と呼ぶことがあります。冠動脈のれん縮、つまりけいれんによって起こる狭心症という意味です。けいれんを起こすと、冠動脈が部分的にギュッと狭まり、血流が一時的に途絶えて発作が起こるのです。冠動脈のけいれんを「スパズム」ともいいます。

けいれんが起こるのは、喫煙や不眠、大量の飲酒、ストレス、寒さなどで自律神経の乱れが関係していると考えられています。

なお、安静時狭心症がプラークの破裂が限定的に生じて心筋梗塞の前兆として起こっている場合(不安定狭心症)もあり、油断できません。初回の発作や、これまでとは異なるパターンで発作が起こったときは、必ず受診しましょう。

心電図の検査でも特徴がある

心電図をとると、アテローム性動脈硬化による労作性狭心症では運動時にST部が下がることが多いが、けいれんによる安静時狭心症では発作時に逆にST部が上昇するパターンがよくみられる

検査・診断①心電図や画像検査で心臓を調べる

狭心症や心筋梗塞の診断で重要なのが心電図検査です。安静時だけでなく、運動負荷検査や二四時間測定などでくわしく調べます。また、最近では血液検査で心筋梗塞を発見できるようになりました。

問診と血液検査をおこなう

狭心症が疑われるときは、まず問診と血圧測定や聴診などの診察をおこない、続いて心電図検査、さらに血液検査をおこないます。胸部のエックス線撮影や心エコー検査をすることもよくあります。

問診(診察)

発作と思われる症状が現れたときの状況をできるだけくわしく医師に伝える

▼問診のポイント

●どこに、どんな痛みがあるか、強さはどれくらいか、持続時間はどれくらいか
●痛みが出たきっかけやタイミングがあるか
●これまでに似たような症状があったか
●ほかにはどんな症状があったか

心筋マーカーで早期診断が可能になった

心筋梗塞は「トロポニンT」という心筋マーカーを調べることで、迅速に診断できるようになりました。トロポニンTとは、心筋がダメージを受けたときに血液中に増えるたんぱくの一種で、血液検査で検知された場合は心筋梗塞が起こったと判定されます。

血液検査

コレステロールや中性脂肪などの血中脂質、血糖値といった動脈硬化の危険因子がないかを調べる。下の3つは心筋の状態がわかる検査項目

▼主な検査項目

項目    基準値

LDL コレステロール    60〜139mg/dl

HDL コレステロール    40〜100mg/dl

中性脂肪 30〜150mg/dl

血糖 80〜110mg/dl

ヘモグロビンA1c(HbA1c) 4.3〜5.9%

CK(クレアチンキナーゼ) 男性:60〜250U/L 女性:50〜170U/L

GOT(AST) 10〜35U/L

LDH 120〜220U/L

血液検査の検査項目と基準値

安静時心電図と心エコーも

心電図をとると、波形や間隔の乱れから心臓のどこに異常があるのかがわかります。まず安静時の心電図をとります。

心エコーは超音波を当て、その反射によって心臓の形や動き、血流の状態を調べる検査です。どちらも苦痛が少ないので、リラックスして受けましょう。

心電図をとる男性

安静時心電図でわからないときは

労作性狭心症は安静時だと心電図に異常が現れにくいため、医師の監督下で自転車こぎや歩くなどの運動で心臓に負荷をかけて心電図をとる。夜間の発作をとらえるために24時間記録できるホルター心電図をとることもある

循環器専門医のいる病院で検査を受ける

狭心症や心筋梗塞が疑われるときは、循環器専門の医師がいる病院を受診します。問診をはじめ、血液検査や心電図、心エコーなどでおおよその診断が可能です。

診断が難しい場合は、冠動脈CT検査などの画像検査をおこなうこともあります。

なお、心筋梗塞は一刻を争うため、救急で搬送されたら検査をしながら同時に治療も進めます。

狭心症や心筋梗塞では

心筋の障害や血流不足、心室の異常などがあるとST部に変化が現れる。労作性狭心症や不安定狭心症ではST部が下降する。急性心筋梗塞や冠れん縮性狭心症ではST部が上昇する

検査・診断②診断の確定には画像検査が有効

心電図検査では心臓に異常が起こっていることはわかりますが、冠動脈のどこに狭窄や詰まりがあるかを調べるには画像検査が必要です。CT検査やカテーテル検査で、くわしく調べることができます。

冠動脈CT検査の手順

CT検査はコンピュータ断層撮影法といいます。エックス線を体の周囲360度から照射し、数ミリ単位のスライス画像を撮影します。撮影した画像を3次元に合成することで冠動脈をくわしく観察できます。

冠動脈CT検査の手順

冠動脈の狭窄や詰まりを画像で捉える

冠動脈CT検査には、「マルチスライスCT」や「MDCT(多検出器列CT)」などがあります。エックス線を360度方向から当てて心臓のスライス画像を撮影し、三次元に合成することで冠動脈の狭窄や詰まり、さらには石灰化の有無も調べられます。

心筋の血流を調べるには、心臓核医学検査(RI検査)も有効です。RI(ラジオアイソトープ)という放射性医薬品を静脈から注射し、ガンマカメラで撮影する方法です。RIが心筋に取り込まれる様子をみて血流の状態を確認します。

カテーテル検査は入院のうえ、診断を確定するためにおこないます。検査からそのまま治療に進むこともあるので、検査前に医師に確認しておきましょう。

カテーテル検査の手順

カテーテル検査は冠動脈までカテーテル(細い管)を通し、造影剤を注入して冠動脈を撮影する検査です。検査後に様子をみる必要があるため、入院しておこないます。

カテテール検査の手順

注意! リスクのある検査なので、よく医師の説明を聞いて

カテーテル検査ではカテーテルで血管を傷つけたり、造影剤によるアレルギーが発生したりする危険がある。万全の体制でおこなわれるが、リスクがあることを理解しておきたい。事前に同意書への署名をするので、わからないことは質問し、納得してから検査を受けよう

場合によってはそのまま治療へ

検査に引き続き、カテーテル治療に進むことも多い。事前に治療についても説明があるので、医師の説明を聞き、疑問点は解決しておこう

冠れん縮性が疑われるときは

冠れん縮性の狭心症かどうかを確認する場合は、アセチルコリンという薬を注入して発作を誘発し、診断を確定することがある

検査時間

1時間程度ですむことが多い

カテーテルの太さ

直径2㎜と非常に細い。ちなみに、太ももの動脈は直径が約10㎜、腕(手首とひじ)の動脈は直径が約3㎜

薬物療法―発作を鎮め、予防するために

冠動脈の狭窄の状態によりますが、安定した狭心症では薬での治療も有効です。

発作を防ぐ薬と、発作が起こったときにすぐに使う薬があるので、それぞれの特徴と使い方、薬の管理法についても知っておきましょう。

治療方針 狭心症はタイプに応じて治療法を選択

狭心症には、比較的病状が安定しているタイプと、そうでないタイプがあります。

それぞれに応じて、薬物療法、カテーテル治療、バイパス手術を検討します。

狭心症の主な治療法

薬物療法、カテーテル治療、手術の3つがあります。病状によっては、すぐにでもカテーテル治療や手術をしたほうがよい場合もあります。

薬物療法

発作を予防する薬と発作を鎮める薬がある。ただし、薬で狭心症そのものが治るわけではない。ほかにも、高血圧や糖尿病、脂質異常症があれば、その治療薬も必要

カテーテル治療

冠動脈の内腔を拡げる。バルーン療法やステント留置のほか、プラークを削る方法もある。

胸を開かずにできるため、手術よりも患者さんの負担が軽い

手術

詰まった冠動脈を迂回するバイパス血管をつくる手術。根治が望めるが、胸を開く手術なので負担が大きい

安定した狭心症なら薬で様子をみる

狭心症の治療法には、薬物療法、カテーテル治療、手術の三つの選択肢があります。基本的な治療の進め方は左ページのチャートに従って決まりますが、どの治療法を選ぶかは冠動脈の狭窄の程度やプラークの状態、発作の起こり方や頻度などから判断します。

安定狭心症で冠動脈の狭窄も軽度なら、薬物で発作を抑えながら様子をみることもあります。また、冠れん縮性の安静時狭心症も薬物療法が中心となります。

しかし、狭窄が重度の場合や、いつプラークが破裂するかわからない不安定狭心症は、すぐにカテーテル治療や手術に進みます。

狭心症の治療の流れ

狭心症のタイプと冠動脈の狭窄の程度によって、だいたいの治療方針が決まります。

どの治療でも自己管理をプラスする

薬物療法やカテーテル治療、手術のいずれの治療法を選択するにしろ、もともとの原因である動脈硬化やストレスなどを改善するために、食事や運動などの自己管理が大切
 


三田村 秀雄(みたむら・ひでお)
国家公務員共済組合連合会立川病院院長。慶應義塾大学医学部客員教授。日本AED財団理事長。1974年慶應義塾大学医学部卒。81年からJeffer-son医科大学(Lankenau医学研究センター)研究員。慶應義塾大学医学部心臓病先進治療学・教授、東京都済生会中央病院心臓病臨床研究センター長を経て現職。日本の不整脈の研究・臨床の第一人者。突然死を救うため、市民によるAED活用という新しいアプローチを提唱。2004年のAED一般解禁につながった結果、今では多くの命が救われている。専門は心臓病一般、とくに不整脈・心臓電気生理学。主な著書に『心臓突然死は救える』(三省堂)、『心房細動クルズス』『心不全クルズス』(メディカルサイエンス社)、編集書に『エキスパートはここを見る 心電図読み方の極意』(南山堂)、監修書に『心臓病:狭心症・心筋梗塞・不整脈・その他の心疾患』(PHP研究所)、『図解 心筋梗塞・狭心症を予防する!最新治療と正しい知識』(日東書院)などがある。

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