「嫌いな授業をサボる」ために最強の「仮病」とは何か?

覆面ドクターのないしょ話 第5回
佐々木 次郎 プロフィール

かゆくて厄介な「疥癬」の正体

 さて、N君は大したことのない皮膚病だったが、かゆい皮膚病の中には感染性のものがある。

ダニによる皮膚病の一つに「疥癬(かいせん)」があり、この病気はありふれたものにも関わらず、非常にやっかいな皮膚病なのである。その痒みの程度は「激痒」と表現される。相当に痒い(らしい。罹ったことがないのでわかりませんが……)。

これはヒゼンダニというダニによる皮膚病で、大きさが0.1 mm程度だから肉眼では見えない。だが顕微鏡で見ると、しっかりした虫体を確認できる。見るだけでこちらが痒くなってくる。

この疥癬、実は歴史が古い。三国志の中にも「袁紹は疥癬のようなヤツ」という一節が出てくるし、江戸幕末の吉田松陰も疥癬で湯治に行ったという話を聞いたことがある。「疥癬」になぜ温泉治療が良いかというと、たぶんイオウ成分が効くからだろう。松下村塾の人たちに疥癬は蔓延しなかったのだろうか?

 

私が若い頃の疥癬の治療は、非常に手間と労力を要する面倒くさいものだった。

疥癬は老人施設で集団発生することが珍しくない。老人施設に入所中のお年寄りが痒みを訴えたり、手にあやしい皮疹が見つかったりすると、病院の皮膚科を受診することになる。私も皮膚科担当だったこともあり、何度も検査した経験がある。

疥癬――激しく痒いらしい(photo by istock)

まず患者さんの皮膚の一部を検査材料として薄く削る。それを溶液で溶かして顕微鏡で観察する。「この患者さんの皮膚、どう見ても疥癬だよなぁ」と思いながら検査するのだが、心のどこかで「違ってくれ」「あの面倒くせぇ治療はしたくねぇー」と祈りながら検査したものだ。

疥癬を顕微鏡で発見してしまったときの衝撃は大きい! 顕微鏡で見ると、虫体にいかにも痒みをもたらしそうなしっかりした手足や顔がある。メスの場合は、その体内に丸々とした卵がいくつも入っていることや、すでに虫体の周囲に産卵後の卵がたくさん散らばっていることもあり、ゾッとする。

「か、疥癬陽性!」

「ヤだ~もうっ!」

「何だか俺まで痒くなってきたぞ」

疥癬が発見されると即座に治療を始めなければならない。軟膏治療や入浴剤を使った治療が行われていたが効果は弱かった。

効果が強かったのはγBHC(ガンマBHC)という化学薬品だった。ただしこの薬品の非常に面倒な点は、この薬品を混ぜた軟膏を患者さんの全身に塗って6時間後にお風呂に入れ、洗い流さなければならないことだった。手間も人数も非常にかかる治療だった。

そして、ある年に特効薬が開発された。イベルメクチンという内服薬である。外来で疥癬と診断されたおじいちゃんに、この内服薬を投与しようとしたら、家族である息子さんが驚いた。

「イベルメクチンですって!? それ、まさか人間に使うんですか?」

「はい。でも薬の名前をよくご存知ですね?」

「はい。僕、獣医なんです」

そう。このイベルメクチンは元々動物(犬、馬、羊、牛など)の寄生虫を駆除するために開発された薬だった。

その後、人の疥癬に対しても有効だということがわかり、保険適用が認められて、広く使われるようになったのである。イベルメクチンの素晴らしい点は、1~2回飲むだけで疥癬が駆除できることだ。

この画期的な薬を開発した方こそ、日本の大村智博士で、博士はこの業績により2015年ノーベル医学・生理学賞を受賞された。全世界で寄生虫や疥癬に罹患した患者さんがどれほど救われたことか! どれほど多くの医療スタッフが、あの重労働から解放されたことか!

それほど素晴らしい薬なのだ。

ありがとうございます、大村博士!

ありがとう、イベルメクチン!