画/おおさわゆう

「嫌いな授業をサボる」ために最強の「仮病」とは何か?

覆面ドクターのないしょ話 第5回
仕事や授業をサボりたいとき、人はさまざまな言い訳をする。まだ元気いっぱいの祖父母の葬儀をでっちあげようとするケースもあるだろうが、そうそううまい言い訳は思いつかず、あきらめて会社、学校で出かけていく。今回取り上げるのは、小学生のとき、著者が驚愕した、完璧な言い訳で嫌な授業だけをサボり一日を楽しく過ごしたクラスの天才(?)の逸話です。

先生、ボク〇〇病です…

小学2年生のときの話である。私は田舎にある地元の小学校に通っていた。

体育の授業だというのに着替えていない生徒が多い。先生が声をかける。

「新井君、どうした?」「お腹が痛いんです」

「佐藤君は?」「風邪引いてます」

「鈴木君もか?」「咳出てます」

「田中君は?」「昨日、熱出しました」

いつもはみんな元気なのに、今日はどうして病人がこんなに多いんだ? その授業の内容が原因だった。今日は水泳なのだ。

学校の水泳の授業が楽しかった人はどのくらいいるのだろうか? 私はあまり楽しかった記憶がない。海や旅行先のプールはあれほど楽しいのに、学校のプールはどうしてみな嫌がるのか?

それは「泳がされるから」である。泳がされるから苦しい。苦しい授業は受けたくないというのが生徒の本音だ。

 

高校に進学すると、プールがすごいことになった。小学校の時は25 mプールだったが、高校にあったのは何と競技用の50 mプールだった。50 mプールを学校の授業で泳いだことのある人は、あまりいないだろう。

この話をすると周りの人は「いいな、いいな、大きくて」と、言ってくれるのだが、これがちっとも嬉しくない。嬉しくないどころか50 mプールは恐ろしいのだ!

普通の25 mプールを思い出していただきたい。真ん中12.5m付近が一番深くなっている。小学校3、4年生だと首の高さくらいであろうか。

これが50 mプールだと、ちょうど真ん中の25 m地点が一番深いことになる。そのあたりの深さは180 cmもあり、私の身長より深かった。

決して泳ぎが好きではない高校生が、50 mプールで泳ぐとどうなるか。

スタートして10 mくらいは25 mプールと同じだ。その後どんどん深くなるのが自分でもわかる。プールの底からくる圧力を感じなくなり、深いプールで泳いでいるのがわかる。中学までは25 m泳げば休憩だったから、ついその癖で休もうとすると足がつかない。何しろ深さは180 cmもあるのだ。溺れそうになる。もがいてもムダなので、そのまま底まで真っ直ぐ沈んでみる。そして底に着いたら、キックして浮かび上がり、足がつく35 m付近まで泳いで休憩する。そして息も絶え絶えに50 mまでたどり着く。

水泳が苦手なら50mプールの向こう岸は遥か彼方(photo by istock)

「先生、途中で休もうと思っても、このプール、足がつかないじゃないですか!」と体育の先生に抗議すると「50 m休まず泳げ!」と相手にもしてもらえなかった。

だから、高校生になってからも水泳は不人気だった。校内の水泳大会などはクラスの誰もが嫌がり、クラスメートより紙一重速く泳げたために、私はクラス代表に選ばれ、溺れそうになりながら50 mを泳がされたのだった。

さて、件の小学校2年のときの話に戻る。

クラスメイトに水泳が嫌で嫌でたまらないN君がいた。

水泳の授業がある度に、「風邪引いてます」、「咳出てます」などと仮病を使った。あるときは前日に、「親戚の葬式があるので休みます」と連絡して欠席したこともあった。

ところが、毎回毎回風邪のようなありふれた病気で授業をさぼるのにも、限界を感じていたのだろう。さらに、そんなに都合よく水泳の授業がある季節に親戚が死んでくれるわけでもない。どんな仮病がいいか、彼が相当悩んだことは想像に難くない。

そんな状況を突破したN君の起死回生の知恵は、我々同級生の想像を超えていた。

あるとき、水泳の授業を前に着替えていないN君に担任の先生が尋ねた。

「N君、体調は?」

「ヒフビョーです」

クラス一同が一瞬きょとん?となった。

担任の先生が「えっ? な、なに?」と訊き直すと、ちょっと恥ずかしそうにもう一度、「ヒフビョーです」と答えた。その病名、小学2年生には衝撃だった。

「ヒフビョーって何だ?」

「聞いたことないぞ」

「何じゃそれ!」

と、みんなで囁(ささや)きあった。また、「ヒフビョー」というその言葉の響きが何ともグロテスクな印象を与え、かなりヤバい状態を想像した。担任の先生がもう一度問い直した。

「N君、ヒフビョーって言ったけど、あなた何か深刻な病気なの?」

「体は大丈夫です」

「じゃ、ヒフビョーって何なのよ?」

N君曰く。

「ヒフビョーっていうのは皮膚の病気で、俺、ここがちょっと痒いんです。だからヒフビョー」

「なんだ、皮膚病のこと?」

クラスがざわついた。

「何だよ。大したことねぇんじゃね? プール入れよ」

「大したことねぇんだけどよ、お医者様(私の父です)がよ、人にうつるといけないからプールに入っちゃダメだって言うんだから、しょーがねーんだよ」

プールはドクターストップ、それ以外のスポーツはOK、食事制限なしという何とも都合がよい病気だった。

このおかげでN君は大嫌いな水泳の授業を堂々と休み、給食を腹いっぱいに食べ、放課後はサッカーをして遊んで帰った。N君にとっては願ったりかなったりの一日だった。

N君のヒフビョーは水泳の授業が終わる秋まで治らなかった……。