銀座・泰明小が「アルマーニ服」にこだわらざるを得なかった理由

生き残りをかけているからこそ…
なかの かおり プロフィール

ブランドがないと生きにくい?

一昨年、私は20年余り勤めた新聞社を退職した。以来、現在のところ組織には属せずにジャーナリスト活動をしている。「フリーランス」というと、怪しまれることも多い。

取材をお願いする時、「新聞記者でした」「福祉・医療・労働の専門です」と説明し、ニュースサイトに掲載された記事のリンクをする。それを読んでいただければ、どんな取材をして何を伝えたいか、記事がどのぐらいシェアされているかを理解してもらえるが、読んでいただけなかった場合は切ない。

「自分はすごく頑張っている」と思ったところで、「〇〇テレビの記者です」「〇〇編集部の所属です」という一瞬でわかるブランドにはかなわない

 

もしくは、「元編集長」「〇〇大の教授」「ベストセラー本を出した」など別のブランドがあれば違うかもしれないなんて思ってしまう。これはどの世界でも同じだろう。〇〇のバックダンサーです。ミシュランで星のついたレストランです。賞を取りました、等々。

そういうブランドやスペシャルさに私たちは弱いのだ。

まずブランドで惹きつけて関心を持ってもらわないと、どんなにいいものでも本質にたどり着くのに時間がかかる。そんな社会の仕組みを予想していた私は、新聞社を辞める前に、大学院を社会人枠で受験した。第二の人生を考えて、教える仕事をするために修士号を取り、さらに取材分野を補強する目的もある。

だが正直に言うと、会社の看板に代わる「世間の人が知っているであろう肩書」として大学院の名前が欲しかった。実際は大学院に行ったら行ったで、「〇〇新聞を辞めるなんて」「子育て中の生きがい探し?」などと言われ、ブランディングもややこしい。

私は名ばかりでもいいからブランドを得ようと必死で、45歳にもなって自分探しが止まらない

障害者就労にもブランディングは必要

私が長く取材している福祉の世界でも、最近はブランディングが重視されている。昨年、「障害者の就労のブランディングを手がけている」という男性に出会って、驚いた。福祉なのにビジネス色を出すのか。それに対して、市民活動をしている女性がこう言った。「ブランドとして知られたら、活動も広がるし売り上げも上がる。大事なことですよ」

なるほど、それはそうだ。このたび取材した障害者と作る「久遠チョコレート」も、有名ショコラティエの協力や百貨店への出店によりブランド名が浸透して福祉事業所のフランチャイズも増えた。記事で紹介したら、私の友人が「どうしても行ってみたくなった」と店舗に足を運んでくれた。そうやってメディアで印象づけることもブランディングの一つだと思う。

障害者の就労の場として作られた久遠チョコレートだが、「まずは美味しくおしゃれで売れるブランドになること」を大切にした 写真/なかのかおり

学歴・肩書…先進国の実情

パッと見てわかる何かがあったほうが、物事がうまく回る現実。それは日本だけでなく、もっと学歴や肩書が重視される先進国もある。

子どもの貧困が問題になる一方で、都心部では学費の高い私立小やインターナショナルスクールが人気という極端な社会だ。

中央区議会のある議員は、アルマーニ問題にかけて「庶民の木造家屋や中小の事務所を壊して、タワー億ションが次々と建つ中央区のまちづくりには、低所得者を少なくして富裕層を増やしたいという行政の思いが感じられる」「まちづくりの歪みが教育分野にまで影響している」と指摘した。

今回の騒動で、逆に泰明の在校生が偏見の目を向けられる心配も出てきた。

どんな学校を選んでも、「子どもたちがのびのびと安心して学べる環境が何より大切」ということを忘れてはならないと思う。