大学「全入」時代に難関私立中学を目指してどうするの?

ほかに力を注ぐべきことがあるのでは…
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むしろ、デメリットになる

必死になっている親御さんには酷だが、もはや難関私立中に子供を入れようとするのは、努力の方向性が間違っている。

高等教育総合研究所代表取締役の亀井信明氏は次のように言う。

「大学としては『本当に優秀な学生』を求め、AО入試などさまざまな入試方式を設けていますが、その理想像はまだよくわかりません。

これは早慶レベルの難関大学でも同様で、したがって難関と呼ばれる中学校が多様化する受験方式に対応した教育を生徒に施せるのかは未知数です」

先述のTさんのように、親子二人三脚の努力が実り、いわゆる難関中学に合格したとする。だがその後も苦労は続く。

 

以下に紹介するのは都内の中高一貫進学校を卒業し、慶大に進学した男子学生・Yさん(21歳)の体験談だ。

「うちの中学校は成績上位40名が『特進クラス』に入ることを許され、定期試験の成績次第で毎年入れ替えがあります。

特進クラスに入らなければ先生からは見捨てられ、東大合格は絶望的になると言われていて、当落線上の生徒は文字通り命を懸けていました。試験科目は11科目、ひとつでも80点を割れば落ちこぼれてしまう世界です。

同学年にはポケットティッシュにカンニングペーパーを挟んでいたのが試験中にバレて停学になった生徒がいましたが、みんなも必死だったので彼のことを悪く言う生徒はいなかった。

過去には特進クラスに入れなかったのを苦に、最寄り駅のホームに飛び込んで亡くなった生徒もいると聞いています」

中学受験での成功は、大学受験、そして就職活動へとつながる長い闘いのはじまりに過ぎない――。学歴ヒエラルキーが就職でもモノをいう時代では、10年以上にわたる闘いにも意義があったかもしれない。

だが前章までで述べてきたように、その学歴はこれから役立たなくなり、むしろ学生自身の主体性や充実した経験が求められる世の中になっていくとすれば、子供につぎ込んできたおカネや時間は、子供と楽しむ趣味やスポーツに費やしたほうが建設的だとさえ思える。

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「ずっと勉強漬けの生活を送っていたために、多様な人がいる場で自己主張ができず、逆に他人の意見に対する理解が不足する学生が増えていると聞きます。

そうすると、人間力を養わないで難関校を必死に目指すことは、むしろデメリットに反転してしまう」(教育ジャーナリストの木村誠氏)

こうした教育環境を取り巻く変化に対応しようと試みる私立中も増えてきている。中学受験情報誌『私立中高進学通信』元編集長の富田亮氏は次のように語る。

「たとえば最近徐々に人気が出てきている広尾学園や三田国際開智日本橋学園といった学校は、『大学合格がゴールではない』と明言していて、生徒の主体性を重んじたカリキュラムや試験内容を組んでいることが評判を呼んでいます。

同様に、'00年代後半から増加してきた公立の中高一貫校も、従来の筆記試験ではなく適性検査や小論文などで選抜を行っています」

すべての学生が、まったく受験勉強をしなくても大学に入れる時代は目前で、その大学のなかには東大や早慶も含まれている。それでもまだ、難関中学に時間とおカネをかけて子供を行かせる意義、あると思いますか?

「週刊現代」2018年3月3日号より