話題は「マリリン」に「カーママ」だった
「相手が石を置くドローショットよりも、石をはじき出すテイクショットの方が得意だということも頭に入れ、後攻の相手にドローショットを投げさせるためのコース、強さを確認」(2018年2月14日/朝日新聞)
一見、何気ない新聞報道ではあるが、ここに日本カーリング界の成長が凝縮されている。まさか大手全国紙に「ドローショット」「テイクショット」というショットの種類とその解説が載るとは……。選手も関係者も感無量だろう。
カーリングの新聞報道といえば思い出されるのは、たとえば8年前のバンクーバー五輪の報道の際に頻出した「マリリン」「カー娘」を使った見出しだ。
4年前のソチ五輪では「カーママ、息子のために勝つ」と、息子の好きなウルトラ怪獣・ガッツ星人を選手が試合に持参したなんていう、まあまあどうでもいい記事もあった。これらはすべてスポーツ新聞発信だ。
それ以外の全国紙ももちろん、連日報じていたのだが、結果のみの短信などの日も多く、どちらかといえば淡白なものだった。それゆえにスポーツ新聞の見出しばかりが先行し、カーリングはスポーツ報道と芸能報道の中間というような独特の取り上げられ方をしていた。
別に誰を責めているわけではない。女子チームだけが出場してきた五輪だから、スポーツ新聞は「マリリンって子は可愛いなあ」、「カー娘もママになったのか」と目を細める世のオジサマたちのニーズに合わせた記事を出したのだろう。
良くも悪くもメダルを取ることばかり注目されるニッポンでは、バンクーバー7位、ソチ5位という結果ではそうでもしないと話題を作りにくかった側面もある。
自分のことを棚上げしないで正直に告白すると、僕もどちらかといえばその口だった。ライフワークになりそうなカーリングを取材するための経費を捻出するために、一般誌や週刊誌などに「カーリング美女ランキング」などの企画を出して糊口をしのいでいた。
まだまだマイナーなカーリングだが、バドミントンやビーチバレーのような美女アスリートが話題になれば、それに引っ張られて競技への注目は高まる。そう信じて、あるいは自分に言い聞かせていた部分もある。
その取り上げ方には賛否両論があるだろうが、とにかく女子は徐々に話題になって、人気や注目も高まってきたのは確かだ。
一方で、男子の試合会場は、「カー娘」後も「カーママ」後も閑古鳥が鳴いていた。
SC軽井沢クラブの両角友佑が、「男子もお願いします」と頭を下げても、一部スポーツ紙が「カーボーイズ」という呼称を使って男子を盛り上げようとしても、五輪に出ない限りは注目されない。それが、五輪礼賛の傾向が強い我が国のマイナースポーツの現状なのだ。窮状とも言える。
かといって、男子選手のほとんどは決して腐らなかった。「俺たち人気ねえなあ」と自虐的に笑いながらも、それぞれ真摯に強化を進めた。彼らはみんな本当に気さくで、ホールではしっかり挨拶してくれるし、顔見知りになってくると世間話をするようになった。
日本選手権などでは男女の試合が交互に行われる。女子の試合を男子が観戦していることも多く、そんなときに彼らをつかまえて「今のショットの狙いは?」とか、「アイスは変化してる?」と示教を仰いだ経験は僕の財産だ。まだまだ勉強中のライターの拙い質問に嫌な顔ひとつしないで丁寧に答えてくれた。

そして、記事になるかどうかわからないけどという失礼な前提でも、SC軽井沢クラブのメンバーをはじめ、4REALの阿部晋也や松村雄太、アイスマン(北見協会)の敦賀信人や澤向裕希、チーム東京(I.C.E.)の神田順平や岩永直樹、すべての選手が真摯に質問に答えてくれた。
彼らの話はどれも面白かったので、僕はソチ五輪前後から「男子カーリング、五輪への険しい道」「ブレイク必至・マッチョカーラー山口剛史」「氷上の椎名桔平、神田順平」「ガチャピン、ヤットさん、阿部晋也」という濃淡硬軟織り交ぜた企画を、様々な媒体に提案し始めた。
しかし、ことごとくボツった。
「だって五輪出てないでしょ」
それが多くの媒体が、男子カーリングの露出をためらう理由だった。余談だが、その頃にはだいぶ彼らとも気安く話せる間柄になっていたので「お前ら、人気も実績もねえなあ」とイジってみると、「竹田さんの企画力の問題じゃないっすか」と切り返されたりしていたのも、いい思い出だ。
しかし、SC軽井沢クラブが、2016年にスイス・バーゼルで開催された世界選手権で4位に入り、平昌五輪出場の可能性が高まってくると、様々な媒体が男子の記事にスペースを割くようになってきた。