いつかこんな時代が来るといいな、とずっと思ってはいた。
かつて、「男のフィギュアスケートなんて、習っていることが恥ずかしくて友達に言えない」などと選手たちが嘆く時代があったのだ。
「僕らの時代なんて、『おかまのスポーツ』って呼ばれてましたよ」
などと、スケート連盟の重鎮も笑い話にするほど。フィギュアスケートといえば女子でしょ? と言われ続け、注目されるのは荒川静香、安藤美姫、浅田真央ら、女子の人気選手ばかり……。
でもそんな時代から、鬼のように強い世界トップスケーターたちに堂々挑んだ、本田武史がいた。
次に出てきた髙橋大輔は、世界中を魅了するアーティスティックスケーターで、私たちの自慢だった。
世界一のスケート技術を持つ小塚崇彦の滑りは、気持ちが良くて、いつまででも見ていたいほどだった。
セルフプロデュースもできる町田樹のエンターティナーぶりは、登場するたびに私たちの度肝を抜いた。
そんな「日本男子黄金時代」の立役者たちが次々に氷上をにぎわせたのが、トリノ五輪(2006)からソチ五輪(2014)のあたりまで。
彼らを追いかけるように急成長し、もはやカリスマ性さえ帯びてしまった、羽生結弦。
彼らのスケートが大好きで「見せるスケート」を目標にし、さらに羽生の背中を追いかけてジャンプを伸ばし、奇跡的な成長をした宇野昌磨。
日本男子2選手による、ワンツーフィニッシュ。
羽生が進化を止めず、宇野が目を見張る勢いで伸びてきたソチ五輪後。平昌ではそんなことが起こればいいな、と多くの人が夢見ていただろう。しかし実際に、本当の世界の頂点に、私たちのよく知るふたりが並び立つのを見ても、なんだか実感がわかない。
こんなにすごいことが、本当に起こってもいいのだろうか――?
そう思ってしまうくらいの、大きな大きな快挙だ。
しかも、この時代の、この戦況でのワンツーフィニッシュということが、文句なく素晴らしい。
海外勢にとりたてて強い選手がおらず、日本人が簡単に勝ててしまったわけでは決してない。
多くの選手が失敗する中、彼らもいまいちの演技で、棚ぼた式に勝ったわけでもない。採点が日本に有利だったり、ホームアドバンテージがあったり、といったチートな勝利でももちろんない。
史上最も高レベルのジャンプ技術が要求される、歴史に残る時代のただなか。フェルナンデス、チャンらベテランはベテランのプライドをかけて挑み、ネイサン・チェン、ボーヤン・ジンら若手も、持てる技術をフル出力で見せつけた。
ほんとうに全選手が死力を尽くしきった平昌五輪。正々堂々と渡り合い、日本のふたりがワンツーフィニッシュを果たしたこと。
それはもう、手放しで称え、大騒ぎで喜んでいい勝利だ。