絶対王者・羽生結弦をめぐる「大メディアフィーバー」に潜むもの

どんな結果でも「英雄伝説」は作られる
森田 浩之 プロフィール

平昌での本番を直前に控えた羽生の「物語」は、キャンベルの英雄伝説理論のなかでは「イニシエーション」の途中なのだろう。

オリンピック連覇という壮大な目標への旅立ちの後に、彼を襲ったのは右足首の負傷という「試練」だった。

いま羽生はそこから立ち直り、「偉業」を達成して「イニシエーション」を完璧なものにしようとしている。

いや、「イニシエーション」を完璧に終わらせたいと思っているのは、羽生よりも日本のメディアかもしれない。

「イニシエーション」が完了すれば、次の段階の「リターン」で彼の属する共同体は祭りをとり行い、活気に満ちる。

メディアはその「リターン」のときを期待して、「イニシエーション」の完了をやや興奮ぎみに待ちわびている。

〔PHOTO〕gettyimages

「どの選手よりも一番勝ちたい」

そんな日本メディアの前のめりの姿勢をよそに、羽生は持ち前の「メディアジェニック」な感性を静かに発揮しつづけている。

「メディアジェニック(mediagenic)」とは、以前の記事(〈絶対王者・羽生結弦は「メディア対応」も世界一〉や〈羽生結弦が『情熱大陸』の「感動の文法」にハマらなかった理由〉)で書いたように、「メディア映えする」「メディアをうまく利用できる」ことを指す。

今のアスリートはおしなべてメディア対応がうまくなったが、羽生のそれは他の選手を圧倒する。

今回のオリンピックでも、その才能は存分に発揮されている。たとえば、韓国入りした空港で記者対応をしたときに、羽生にこんな質問が飛んだ。

 

「今のコンディション何%ですか」

羽生は「えーっと……」と答えはじめた。これを見ていて、まじめに「85くらいですかね」などと答えるつもりなのかと心配になった。

しかし、そこは羽生。目をくりくりと動かして、ほんの一瞬だけ間を置いた後に、こう切り返した。

「……そうですね。まだ滑っていないのでわかんないです。ただ、団体戦も見ていましたけれども、(自分は)どの選手よりも一番勝ちたいという気持ちが強くあると思いますし……」

周りがそうと気づかない程度に、話題を違う方向に持っていっている。「メディアの子」とでも呼びたい羽生のメディアジェニックな能力は、相変わらず高い。