市川紗椰が「中東問題をどう報じるか」で思い悩み、たどり着いた結論

「現代新書を読んでみる」②
市川 紗椰 プロフィール

一番面白かったのは第5章です。中東の問題を「宗派対立」で解説する人がすごく多いけれど、そうじゃない。「スンナ派」とか「シーア派」といったキーワードで現状を捉えて、しかも両者の対立が7世紀頃から続く根深い問題だとしたら、このような事態になるのも仕方ないのかなと思ってしまう。

でも、宗派対立は原因というより、政治利用された結果なんですね。本書にあるように、「政治対立が先にあり、それが宗派を巡る対立に転化される」んです。

サウジアラビア(スンニ派)のサルマン国王とイラン(シーア派)のロウハニ大統領(Photo by gettyimages

中東の外にいる人たちが宗派対立をあおり、その構図が国内でも反映されて、たとえば選挙でも勢力争いに利用される。結果、どんどん宗派間の溝が深まっていく。事態はとても複雑なのに、どうしてもメディアは単純化して図式的に理解しようとしてしまう。わかりやすいキーワードで物事を把握しようとすることの危険さをとても感じました。

P125の家族写真(父が「シーア派」、母が「スンナ派」、娘が両者を組み合わせた造語「スーシー」のボードを持っている)は以前ニュースで見たことがありましたが、その時は「宗派を超えて仲良くしよう」というメッセージとして表面的に理解していました。でもそれ以上に、宗派の違いがすぐに対立に結びつくのではなく、歴史的に見ても「宗派共存」は可能なのだという事実をしっかり知ることが大切ですね。

「知ったつもり」が一番良くない

ニュースキャスターを務めていた2015年頃は、シリア難民やイスラム国の問題が頻繁に取り上げられました。その時に感じたのは、直近に起きたことを知るだけで中東問題を知ったつもりになってしまうということです。専門家になった気がしてしまう。10年さかのぼるだけでも違った構図が見えてくると思うのですが、ニュース番組では限界がありますね。

 

実際、「アラブの春」だってどう評価していいかわからない。「アラブの春」で独裁が倒されたことで、多くの国で治安が悪化していますよね。民主化は大事だけど、独裁の方が平和を維持できていたかもしれない。結果がわからない状況で、事態を理解することの難しさを感じます。

きっと多くの人が「中東=怖い」というイメージを持っていますよね。私は中東ではドバイとエジプトに行ったことがありますが、いまは観光地を狙うテロも起こっていますし、確かに危険度は上がっていると思います。でも、本書の冒頭にあるように、中東でテロが頻発するようになったのはイラク戦争以降の話なんです。

関心を持っているフリとか、知ったつもりになることは良くない。本書を読んで、歴史を学ぶことの大切さを改めて感じました。

9.11後の現代史』目次
第1章 イスラーム国(2014年~)
第2章 イラク戦争(2003年)
第3章 9.11(2001年)
第4章 アラブの春(2011年)
第5章 宗教対立?(2003年~)
第6章 揺らぐ対米関係(2003年~)
第7章 後景にまわるパレスチナ問題(2001年~)
終 章 不寛容な時代を超えて

構成:現代新書編集チーム