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異例の「思想闘争」勃発!中国は再び毛沢東時代に戻るのか

文革派VS.改革派の知識人が激論

働いても働いても豊かになれず

ここ1カ月の間に、現代社会を描いた中国映画を相次ぎ鑑賞する機会があった。いずれもドキュメンタリー映画で世界的にも有名な王兵(ワン・ビン)監督の作品で、雲南省の山奥に暮らす3姉妹を記録した「三姉妹~雲南の子」(2012年)と、現在渋谷の映画館で公開中の「苦い銭」(2016年)だ。

「三姉妹」は強風が吹き荒れる山の斜面にしがみつくように人々が暮らす貧しい村で、出稼ぎで父母が不在のぼろ家で助け合って生きる幼い3姉妹の生活を記録した作品だ。

「苦い銭」はこの作品のいわば続編で、長江デルタ地区の衣料品を作る零細工場で働く出稼ぎ労働者の、長時間労働でもわずかな金しか稼げない希望のない毎日を描いている。

いずれの作品にも共通するのは、日本のメディアでは伝えられることが少ない、北京や上海など大都会の繁栄とはまったく無縁の人々の暮らしだ。

1978年に鄧小平が始めた中国の「改革開放」は本来、彼ら貧しき農民や出稼ぎ労働者にも豊かになるチャンスを与えたはずだったが、30年以上を経てはっきりしたのは、中国社会の貧富の格差は広がるばかりで、「権貴」と呼ばれる特権階級や彼らとつながる企業家に富が集中する一方、いわゆる「低端人口」と呼ばれる彼ら貧しき人々には決して豊かになれるチャンスが回ってこないということだ。

この改革開放のあり方を巡って、中国では今年に入り、知識人の間で激烈な論争が起こっている。共産党政権の合法性にもつながる議論だけに、海外の中国研究者やメディアもその動向に注目しており、ここではこのテーマを取り上げてみたい。

今回の論争の口火を切ったのが、中国共産党の理論誌『求是』に掲載された、人民大学マルクス主義学院教授周新城の論文「共産党人は自己の理論を一言で概括できる:私有(財産)制消滅」という文章だ。多維ニュースによれば、文章はまず左派の微信アカウント「察網」に掲載され、その後『求是』の微博に転載された。

 

文化大革命の亡霊が再び

論文は、「私有制消滅は社会主義発展の客観的、必然的趨勢だ」「私有制消滅、公有制確立、これは共産党員の忘れてはならない初心であり、党員が心に刻まなければならない使命だ。これを忘れることは、すなわち裏切りであり、共産党員とはもはや呼べない」と訴えた。

さらに「現在、公有制を堅持発展させるか、私有制を徐々に消滅させるかの闘争は、国有経済にいかに対応するかという問題に集中的に表れている」と指摘。

「国有経済を消滅させようと騒いでいるお偉いさん方は、社会的に影響力のある“著名経済学者”や、高い地位にあり実権を握っている指導者もいる。彼らの大多数は共産党員なのに、『共産党宣言』の私有財産制消滅や国有経済を主とする公有制についての論断を読んだことがあるのか」と批判のトーンを強めた。

具体的には張五常、呉敬璉ら著名経済学者を名指しし、「赤裸々な反党反社会主義の張五常は経済管理部門の会議で、『人間の本性は利己的だという一言で、共産主義を論破できる』と語った」と批判。

さらに「社会主義には国有企業の必要がない」と過激に吹聴しているのは呉敬璉であり、国有企業を何としても消滅させようとしていると指摘。「私有財産制万歳を吹聴している」「赤裸々に党や社会主義に反対する新自由主義分子」「人格も卑劣」などと罵倒を繰り返した。

ただ、GDPで世界第二の経済大国となった中国に、いまさら毛沢東時代のような経済に戻れという主張自体、無理があり、ネットでも多くの批判があった。

フランス国際ラジオによれば、新浪網では6万を超えるコメントの大部分は、周の文章は文革の風潮があるとの見方で、「まずあなたが自分の財産をすべて差し出してから、私有制を批判せよ」なの批判があったという。

華南師範大学の張立建講師は、周の文章は常識に反しており、他人の文章を悪辣に攻撃する文章を公開の刊行物に載せるとは、この刊行物の高い見識と恐れ知らずに感服するしかない、と皮肉を込めて述べた。

だが、このような時代錯誤とも言える論文が党の機関誌に掲載されたことは、大きな波紋を広げた。特に看過できないのは、周論文がこれまで公的な報道ではほとんど紹介されなかった習近平総書記の次のような発言を取り上げたことだった。

2016年10月に行われた全国国有企業党建設工作会議で、習近平は次のように語った。

「中国共産党の指導と我が国の社会主義制度のもと、国有企業と国有経済は不断に発展させ、壮大にしなければならない。だが一時期から、社会には国有企業に対し『国有企業による独占』『国有企業は民間と利益を争っている』『国有企業は持ちこたえられない存在だ』などと奇怪な言説を述べるものがあり、そして『私有化』『脱国有化』などと吹聴している。

特に各種の敵対勢力と下心のある人が国有企業に泥を塗り、国有企業改革の最良の方法は『解体』だなどと主張し、人心を惑わそうとしようとしている。我々の同志にはこの問題がはっきりと理解できず、この誤った観念を受け入れているが、我々は政治的にこの問題を見るべきであり、純粋な経済問題と考えたら、あまりにも幼稚だ!」

最高指導者がこのような考えを明らかにしていたからこそ、周は堂々と「私有制消滅」との主張を党機関誌で展開できたのであり、これが筆者が以前、本ウェブでも紹介した、文化大革命の歴史を教科書から削減する動きとともに、改革開放の流れを否定する左傾化、毛時代への逆行と人々には映ったのだった。

この文章について、趙紫陽元総書記のブレーンで、1989年の天安門事件後、海外に逃れた政治学者、厳家祺は在米華字メディア、博聞社の取材に次のように指摘した。

「毛沢東時代を概括すれば3つの特徴がある。『私有制消滅』『帝政の復辟』『鎖国』であり、文革時代はこの3つが頂点を極めた。鄧小平が提唱した改革開放は、一党独裁を除けばこの3つに背くものだった。『求是』に載ったこの『私有制消滅』という文章は文革終了後初めて現れたもので、重要な目印だ」。

そして「北京の地底から再び現れた文革の幽霊が再び中国の上空を徘徊している」と表現した。