サッカー界イチの知将が直伝!組織の力を最大化する「伝え方の極意」

「楽しむ」と「勝つ」は両立できる
風間 八宏 プロフィール

そうではなくて、「お前のプレーは何だ!」、「お前のプレーはダメだ!」と言えば、指摘された選手は自然とプレーのほうに意識を向ける。「プレー」が入っていれば、感情論でも何でもない。

あくまで選手が自ら望んでいる「うまくなる」という目的のために、気づいたことを指摘しているにすぎないわけです。

「お前はダメだ!」ではなく、「お前の仕事はダメだ!」と言うべきで、仕事の問題として指摘していれば、感情論ではなくなるのです。感情がもつれていては、伝わることも伝わりません。

この二つ。 人のせい、物のせいにさせない代わりに、相手の人格は尊重しながら、プレー(仕事)の問題点はきちんと指摘する。 この点だけは、私が絶対に動かさない大原則です。

楽しいサッカー

さて、この二つを大原則にして私が選手たちにやってもらいたいのはどんな「サッカー」か。簡単にその点を書いておきます。

私は、自分たちが主体となってボールを持ち、ゴールを奪って勝つサッカーを目指します。見ていて楽しい、そしてやっている選手も楽しいサッカーで勝つことが理想です。そのために日々トレーニングをしています。

ゴールするために何が必要かというと、当たり前ですが、まず、こちらがボールを持っていることです。ボールという武器を持っている間は、点を取る権利は味方にしかありません。ボールさえ持っていれば主導権を握れるのです。

ではボールを持ち続けるには何が必要かというと、まずは個人の技術です。それぞれがボールを奪われなければよいわけです。

 

ボールを奪われないためには、相手に体を触らせないようにすること。それから相手に狙わせないこと。自分に見えて敵に見えないものを数多くつくっていくことです。

そのためにはパスもある、運ぶ技術もある。ただし徹底的に正確な技術を身につけ、さらに早く判断する習慣をつけることが必要になります。強いものにつぶされる、速いものにスピードで負ける、という概念をなくしていくのです。

監督として初めて選手に向き合ったとき、私はフロンターレではこの発想を伝えるために「伝えない」ことから始めて、グランパスでは「伝える」ことから始めたのです。

私がJ2に降格した名古屋グランパスの監督をやりたいと思ったのは、フロンターレのときもそうでしたが、「変わりたい」という本気がクラブから伝わってきたのがきっかけでした。勝って上を目指し、楽しめるサッカーをやってほしいと、両方を追うチャレンジを私に託してくれました。私も、グランパスは面白そうだと感じました。実際、グランパスでの日々は楽しくてたまりません。

楽しむという言葉の意味を履き違えている人、あるいは「楽しみたい」などと言うと、そんな甘い考え方では勝てない、不謹慎だなどと言う人は今も意外に多いのではないかと思います。

私の持論は違います。

仕事を楽しもうとしている人は、楽しもうとしていない人よりも何倍も努力ができます。努力することを辛いと感じないからです。どんなにきつい練習をやっても、好きなこと、楽しいことは苦にならないはずです。本気で取り組めます。

楽しむ覚悟をすれば楽しくなる、楽しむ覚悟がなければ苦しくなる。楽しくなったら成長できる、苦しくなったら成長が止まる。

試合でも、楽しもうとする選手のほうが、最後まで足が止まらない。それが私も楽しみたいし、選手にも楽しんでほしい理由です。

勝負には勝ちもあれば、負けもあります。スポーツにおいては、特にサッカーという競技では、どんなに前評判が高くても、客観的に見てはるかに実力差があっても、百パーセント勝てるという保証など、ありません。つまり目先の勝敗を指標にして目先の1勝にこだわりすぎると、ブレが生じます。しかし「楽しむ」を指標に置けば、楽しんでいるかどうか自分で向き合うことができます。本気であるかどうかが大事なのです。

どうやって人を動かすか。 どうやって人を成長させる手助けができるか。 どうやって人の頭の中を変えられるか。 私がどのように、選手たちにこれらを伝えてきたか。 そのノウハウを、グランパス、フロンターレでのエピソードも入れながら、『伝わる技術 力を引き出すコミュニケーション』(講談社現代新書)に書きました。

サッカーの指導者の方はもちろんですが、他のスポーツでも、さらにビジネスの世界でも、チームや組織での、あるいは1対1でのコミュニケーションについて日々、格闘されている方に少しでも参考になれば、嬉しく思います。

人は頭からすべてのことが発信されます。だからこそ選手の頭も、自分の頭も刺激し続け、変わり続けなければならないのです。

※『伝わる技術』(講談社現代新書)、「はじめに」「序章」から構成