サッカー界イチの知将が直伝!組織の力を最大化する「伝え方の極意」

「楽しむ」と「勝つ」は両立できる
風間 八宏 プロフィール

人のせいにするな、物のせいにするな

グランパスでも、フロンターレでも、もちろんその前の筑波大でも桐蔭横浜大でも、監督になって、まず最初に選手に伝えておいたことがあります。それは、「人のせいにするな、物のせいにするな」ということです。

シーズンの始めに、選手たち一人ひとりと面談をすることがあります。一番の目的は、彼らが何をしたいのか、どうなりたいのか、その希望をしっかり聞いておくことです。

選手たちにほぼ共通しているのは、「うまくなりたい」「勝ちたい」ということ。

うまくなるためには、監督やコーチにやらされている間は上達するわけがありません。「自分がやる」状態に、持っていく必要があります。

ただし、人間は弱いものですから、うまく行かないとき、どうしても人のせい、物のせいにしがちです。

試合に出してもらえない、監督やコーチと相性が悪い、他の選手のほうが贔屓されている……。自分がうまくできない、試合で活躍できないのは、環境が悪いからだ、監督のせいだ、他の選手とプレーがかみ合わない……。

自分がある程度頑張っているつもりの選手は、つい、こう考えてしまうものです。

うまくなるために自分自身と向き合っているとすれば、そこに周りは一切関係ありません。人のせい、物のせいにするのはラク、私から言わせれば、人のせい、物のせいにするのは、逃げていることと同じです。

『伝わる技術』で、繰り返し出てくる「自分と向き合っている」選手というのは、人のせい、物のせいにしない、つまりプロとして逃げていない人間のことです。別にプロスポーツに限った話ではなく、どんな仕事においても、まず、「自分と向き合っている」ことが、人間として、すべての基本だと私は思っています。

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もし明らかに、人のせい、物のせいにして逃げている選手がいたら、「お前はうまくなりたいって言ったよな」とだけ、私は伝えます。それだけで選手たちは立ち戻ることができる。余計な言葉は必要ありません。

まず、望みを聞いておけば、人のせい、物のせいにして逃げようとする選手たちに、ひとこと言うだけで済むのです。選手たちから「証文」を取っておけば、指導もしやすいのです。

選手に対して、人のせいにするな、物のせいにするなと言う以上、もちろんチームを率いる私も、選手が自分の望むように動かないこと、成長しないことを、人のせいにするわけにはいきません。

とにかく全力で監督という仕事に向き合います。

私は監督の仕事の8割は、選手に何をどう伝えるかだと思っています。どう伝えれば、選手が自ら考え、自ら動くようになるかを考える。私が何かを伝えた結果、やらされているのではなく、自らやるようになる。そういう状態に選手たちを持っていくのが監督の大きな役割の一つです。

そのため、朝起きてから寝るまで、グラウンドにいるときはもちろん、散歩をしているときも、音楽を聴きながら車を運転しているときも、テレビドラマや映画を観ているときも、食事をしているときも常に頭の隅で、それぞれの選手に何をどう、どんなタイミングで、どんな方法で伝えようか、考えている気がします。

人に触れない、仕事を怒る

私が絶対に守るもう一つのこと、それは選手を怒るときの心構えです。

私が、選手を怒るとき、常に心がけているのはただ一つです。相手の人格、尊厳は否定しない。触れていい、否定してもいいのはプレーだけにする、ということです。

 

最も注意しなければならないことは「人」に触れちゃダメだということ。「お前は何だ!」「お前はダメだ!」と言ってしまうと人格や性格に触れ、選手の存在そのものを否定することになる。

そうなれば言われたほうも、自分という人間を否定されたことに、納得がいかなくなるでしょう。そこからは単なる感情のもつれしか生まれません。好きだ嫌いだという感情論になっては、当然、伝わるものも伝わらなくなってしまう。

せっかく自分自身に向かっている選手に、違う方向を向かせてしまったら意味がない。「人」に絶対に触れてはいけないと、私は決めているのです。