サッカー界イチの知将が直伝!組織の力を最大化する「伝え方の極意」

「楽しむ」と「勝つ」は両立できる
風間 八宏 プロフィール

個人の力を引き出せば組織は強くなる

私が監督として率いてきたのは、4つのチームです。桐蔭横浜大学サッカー部(1998~2003年)に始まって、母校の筑波大学蹴球部(08~12年)、Jリーグでは12年4月から就任したJ1の川崎フロンターレを16年まで5シーズン、そして17年1月に始動し、クラブで初めてのJ2を戦い、1年でJ1に復帰した名古屋グランパスです。

選手はうまくなりたい、私はうまくさせたい。お互いに目的がしっかりしているから「伝わる」と思っているのです。 私の指導法は、オリジナルです。もちろん現役時代の監督たちのいい部分から学んでいることもありますが、結局のところ、自分と向き合ったうえで、どうすればいいかを考えてきました。

フロンターレでは、13年にヴィッセル神戸から移籍してきた大久保嘉人がまさに自分の殻を打ち破り、3年連続得点王という快挙を成し遂げました。中村憲剛、小林悠、大島僚太、谷口彰悟、車屋紳太郎はじめ多くの選手が、自分と向き合い、自分のレベルを貪欲に上げていき、次々日本代表に呼ばれるようになっていきました。

グランパスでは、私は選手の年齢のことは特に気にしていないのですが、それでも楢崎正剛、佐藤寿人、玉田圭司といった元代表選手が、さらにうまくなったことには驚きました。また、16年まで期待されながら出場機会に恵まれなかった青木亮太、和泉竜司といった若手が、何度も殻を破ったプレーを見せてくれました。

もちろん名前をあげなかった誰もが変わり続けていますので、これからの成長を楽しみにしています。「個」がそれぞれ強くなれば、当然「組織」は強くなります。それぞれが「自分が責任者」と思っているチームになれば、勝つこと、楽しむことを、彼ら自身がその両方を追いかけていくようになります。強いて言えば、それが根底にある私の指導哲学と言えるでしょうか。

グランパスの1年目は、残念ながら他チームを圧倒して優勝または2位で自動昇格という結果をもたらすことはできませんでした。とはいえ、16年までのグランパスとは大きくメンバーが替わり、ほとんどゼロからのスタートだったものの、J2最多の85点を取れたということは、自分たちのスタイルで楽しめる時間が多かったからだと思います。

選手たちが楽しくないと、お客さんは楽しくありません。ただ勝つだけでは、お客さんは集まってくれません。それがシーズンの後半戦は、サポーターと「一体感」を感じるどころか、もうサポーターとチームが「一体」であるという思いを感じることができました。

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昇格プレーオフの決勝は、3万6000人近いグランパスサポーターが集まってくれて、日本でもトップレベルの雰囲気の中で頑張ることができました。

17年シーズン、グランパスの戦いの場はJ2でしたが、観客動員数は前年度、J1での数字を上回りました。これはJリーグ史上、初めてのことだったそうです。

「勝つ」と「楽しむ」の両方を追い求めていくことは容易ではありません。何せ「治療は痛いもの」という考え方を、変えなくてはなりませんから。

変えなければならないのはただ一つ。それは選手たちの「頭の中」です。さらに言えばチームに関わる人間すべての「頭の中」です。

 

頭の中が変われば、すべてが変わっていきます。

ですが、特にJリーガーともなると、彼らもプロとして今まで自分がやってきたやり方があり、成功体験があるわけです。

その「頭の中」を変えるには、「伝え方」を相当工夫しなければいけません。 私が書いた『伝わる技術 力を引き出すコミュニケーション』(講談社現代新書)のメインテーマは、この「伝え方」です。人を変える、成長してもらうための「伝え方」、コミュニケーションの方法です。

フロンターレでは、正確に「伝える」ために、あえて「伝えない」ことから始めて、選手やスタッフに考えさせました。

グランパスでも、選手に考えさせる作業は続けましたが、最初からある程度「伝え」ました。

伝える言葉も、より噛み砕いて伝えるべきか、逆に、あまり噛み砕かないほうがいいのか、選手たちに一番よく伝わるにはどうすべきかその都度考えています。

ただ間違ってはならないのは、監督である自分が主役ではないということ。主役はあくまで選手であり、クラブであるべきです。

つまり主役ではない私が自分の考え、自分のやりたいサッカーを押しつけるのは本末転倒だと考えます。あくまで選手たちに合った、選手たちの能力を引き出すものであるほうがいい。選手が成長する、その手助けをしていくことがチームの勝利につながり、ひいてはクラブのためになるということです。