『ユーリ!!! on ICE』を観れば五輪フィギュアは百倍面白くなる

『羽生結弦は助走をしない』著者激賞!
高山 真 プロフィール

第10話、勇利がヴィクトルとおそろいの指輪を買い、教会でお互いの指にはめたシーンの後です。ライバルのスケーターがいるレストランに合流したところで、その指輪を発見されたシーン。

「結婚おめでとう!」と拍手され、「みんなー! 僕の親友が結婚しましたー!」と店中に大声で告知され、店中の拍手の中で、スケーター仲間もそれぞれ「らしい」リアクションをとります。そのスケーターたちの中に「ゲッ。男同士で結婚!?」という表情がひとつもなかったことに、私は何よりも感激したのです。

ことあるごとに勇利にキツくあたるユリオことユーリ・プリセツキーの「お口あんぐり・ボーゼン」の表情は、「男同士が結婚する」ことへのショックではなく、

「勇利のコーチを務めているヴィクトルに、どうしても自分のフィールドに来てほしい。その思いからいろいろ動いているのに、今後どうやって動いていっていいのかわからない」
という意味のショックであることが見て取れました。

スケーターたちの顔が険しくなったのは、ヴィクトルの「これはエンゲージリング。(勇利が)金メダルで結婚だよ」という説明の、「結婚」ではなく「勇利が金メダルを獲る」ことへの反応だったのです。あとから乱入したスケーターも、「その結婚が祝福できない」のは「金メダルを獲るのは自分だから」という理由からでした。

 

このアニメが放映される前から、私の周りの、特に年若いゲイの友人知人がよく言っていた言葉があります。

「男女の恋人同士でも、同性の恋人同士でも、何も変わりゃしないのに。フツーに祝福されたいよね。いや、祝福なんて別になくてもいい。『ふーん、そうなんだ』程度で充分。『ゲッ。気持ち悪い』はもちろん傷つくけど、『偏見に負けず堂々としてて偉い!』っていうのも、なんか余計な荷物を背負わされてそうでちょっとキツい。結婚する男女のカップルで、そういうこと言われる人っていないでしょ」

『ユーリ!!! on ICE』のこのシーンを見ながら、私が思い出していたのは、そんな言葉でした。

深キョンドラマに共通するフラット感

現在、フジテレビで毎週木曜日に放送されているドラマ『隣の家族は青く見える』は、4組の家族がそれぞれに抱える問題を丁寧に描いている作品で、私が今季もっとも好きなドラマです。その4組の中に、男性のゲイカップルが1組います。そのゲイカップルの描かれ方が、ほかの3組の描かれ方と比べても非常にフラット。ヘンにお笑い担当にさせられていたり、ヘンにどぎつい担当にさせられたりすることもなく、「それぞれの家庭が、それぞれに抱える何か」を描いています。

『ユーリ!!! on ICE』は、もしかしたら、「どんな『愛』であろうと、そこに上下をつけることなく、フラットに描く」という点で、このドラマに先んじていたのかもしれません。
胸が温かくなるような作品にも、さまざまな種類があります。私が好きなのは、「その作品自体がほんわかと温かい。それだけでなく、現実までほんわかと温かくしようとしている。そんな意図が見える」作品です。

モード誌の表紙を飾るほどの人気だ

「もしかしたら、近い将来、そういう時代がくるかもしれない……」

そんな希望を持たせる作品が、私は本当に大好きなのです。私にとって、『ユーリ!!! on ICE』は、そういう作品でした。その作品を愛してやまない方々が、私の元に「つながる気持ち」を寄せてくださった。それが幸せでなくてなんなのでしょう。

『ユーリ!!! on ICE』は、現在、劇場版を製作している真っ最中だそうです。病気の治療中の私は、
「まだまだ世の中には見たいもの、味わいたいもの、知りたいものがたくさんある」
という思いを治療の原動力にしています。「フィギュアスケート観戦」は、その原動力のトップ項目ひとつなのですが、現在は「YOI劇場版を映画館で見ること」もトップグループに位置しています。

世の中には、まだまだ素敵なものがある。世の中は、まだまだ素敵に変わっていく。そんな希望だけは、お互い放棄したくないものですね。

高山真(たかやま・まこと)
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。集英社新書の『羽生結弦は助走をしない』がベストセラーになり、現在「『羽生結弦は助走をしない』特設サイト」にて平昌五輪までエッセイ連載中。本書の中で肝臓がんの治療中であることも明らかにしている。特設サイトはこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/special/hanyuyuzuru/