乱歩賞受賞・若手作家二人が全面対決!勝つのは「白」か「黒」か

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下村 敦史, 呉 勝浩

話は乱歩賞へ

――受賞してからも順調に作品を発表されているお二人ですが、受賞前と後、変わってきたことはどんなところでしょうか。

 読みやすさという話をさせてもらうと、受賞作のときに、新人ということもあって、みなさん文章のことは編集者にも読者にも先輩にもちょくちょく言われると思うんですが、僕は結構それが激しかったタイプで。そこからは、読みやすいってどういうことなんだろう、というのを考えるようになりました。

独りで書いて投稿して結果を待っているだけでは全然わからないんですよね。『ロスト』は、『道徳の時間』の結果を待っているときにほぼ書き終えていたものだったので、自分の文書の何が悪いのかわからないままだったんです。やっぱり読者の感想を知れるのは、デビューしたからこそだと思います。

それがあって今、ようやく、こうしていこうああしていこうとか、これは駄目なんだなって、自分の中で文章を客観視する意識を持つようになりました。なんとかスムーズに読めて、事実を事実として伝えながら、物語の面白さを味わってもらえるようには工夫していこうと。下村さんはデビューしてから、文章の面で自分は変わったなって思うところはありますか?

下村 そうですね。より固さは外れたかなって思っています。プロして書いていくうちに、ここまで力まなくてもいいのかな、わかりやすくていいのかなって思うようになったところはありますね。

 『叛徒』を読み直したときはどうでしたか。

呉勝浩氏

下村 無駄なところが多いなというのは思いました。

 そうですよね。僕も二年前の『ロスト』の文章を読んだときに、もう死ねって言いたくなりました。なんだよこれ、昔の俺、って。僕は『道徳の時間』の文庫版もほぼ全面改稿しているんですが、昔の原稿がデータで届いた時にうんざりするんですよね。難しい単語をわざわざ使っているとか、この視点人物がこんなに堅苦しい言葉を使うだろうか、とか。

それ以外にも、文章自体の構造も回りくどくて、いちいち気になるんです。情報の処理の仕方も下手くそですし。それら全てを直すことはできないんですが、過去の作品を見ると、もう直したくて直したくてしょうがない。でも、書いていたら、好みとかが変わっていきませんか? 僕は結構変わってきたなと思うんですよ。短文を多くするとか、長文にしちゃうとか。

下村 どうなんでしょう。まぁ、やっぱりデビュー前はそれなりに凝った表現とか、それぐらいはしないと下手だと思われてしまうんじゃないかという恐怖心から力が入りすぎていたと思います。プロになって経験を積むうちに、誰にとってもこれくらいの表現は過剰なんだな、とか、そういうのはわかってきたのかなと。

 結局のところ、読者の目をすごく意識するようになった、ということだと思うんですよね。応募しているときは、下読みの方々や選考委員の先生方に読んでいただくことしか前提にしていないですし、あとは読者が自分だけなので。

デビューするとやはり読者が一気に広がりますよね。そこで自分を押し通すという選択もあると思いますし、多少なりともよくないなと思って変えていくところもあると思う。それは永遠に完成するものではないので、この先もずっと試行錯誤していくことになると思うんですが、文章にしても物語にしても、読者を意識することっていうのがやっぱり一番大きく違うところなんだなって思います。

下村 僕の場合は応募しているとき、周囲に素人の読者もいたので、数は少ないものの、小説を書いていない人の目線というものがあったんです。すると、誤解が生まれるところなどがあるんですね。それを聞いたときに、こういう書き方をするとこういう誤解が生まれるんだ、という参考になったのと、だからこそ誤解をなくそうという場合もあれば、ミスリードのために、あえてそういう文章を加筆してみたりしていました。

そうやって目の前に読者がいたことは、人にどう読まれるかということを意識するという意味では勉強になったと思います。でも最近は、一人でも多くの読者の方に手に取ってもらうにはどうしたらいいのか、というのをよく考えるようになりましたね。僕は新刊を出す際に、“新境地”と帯に謳われることが多くて。

 僕なんか“覚醒”って書かれてましたよ。中二か(笑)。

下村 それだけいろんなものを書いているということだと思うんですが、色々書いているうちに、うまくいったものもあれば、これはそんなに受け入れられなかったな、というものもあって。そういう経験を10冊近くしてきて、どういうものが受け入れられるかはまだわからないんですが、ようやく、こういう書き方をするとあまり受け入れてもらえないんだな、というのはわかるようになってきました。

 僕はむしろそこに片足突っ込みたくなるなぁ(笑)

下村 天邪鬼的なね(笑)