乱歩賞受賞・若手作家二人が全面対決!勝つのは「白」か「黒」か

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下村 敦史, 呉 勝浩

――かなり褒め合っていただきましたが、お互いにここは負けていないな、というポイントはありますか?

 やっぱり登場人物です(笑)。でも、ド頭のインパクトは絶対負けたくないところですね。後は、登場人物の右往左往ぶりも負けたら話にならないなって。いい人っていうカテゴリーの人間ばかりが出てくることは僕の作品ではありえなくて、いい人や悪い人とキャラクターを決め打ちしないで書こうっていうのは決めています。

『ロスト』もそう思って書いているんで、単純に白黒つけるという企画とは関係なく読んで欲しいですし、登場人物に関しては、愛すべきキャラクターもいると思っているので、そこを読んで欲しいと思います。

下村 『ロスト』は外に広がっていくサスペンスだと思うのですが、『叛徒』は逆に、内側に向かっていく閉塞感あるサスペンスです。そういう意味では書き方は違うんですが、緊張感やスリルでは負けないところがあると思っています。

根っこが似ていても、全然違う

 下村さんの書く物語は、作品としてコンセプトがしっかりとしていて、芯が通っていると思うんですよ。そして、構成も巧みですよね。どの作品も、仕掛けが明らかになって、物語やテーマが明かされるという構造がすごく上手に作ってあって。

それは、ミステリーの基本だと思うんですが、実際にやるのはそんなに簡単ではないんですよね。僕自身、反省するところですが、仕掛けが仕掛けだけになってしまったりすることがよくあります。下村さんはそこが無理なく上手くできているんですよね。

それを僕が一番思ったのは、『失踪者』です。ちょっとどう考えてもSFになってしまうんじゃないの、ファンタジーになってしまうんじゃないの、っていう謎をギリギリのラインでちゃんと着地させて、あの回答を出したのはすごいなと。以前プライベートでお会いしたときに、あのラストは実はまったく考えていないまま書き始めたと聞いて、この人はすごい人だな、と思いました

下村 『失踪者』はたまたま奇跡的に閃いて出てきたんですが、なかなかあんな風に広げた風呂敷をたたむのは難しいですね。僕は呉さんの『白い衝動』を読んだときに衝撃を受けました。一つの太いテーマを用意して、こんなに主人公の信念を揺さぶっていけるんだって。そういった意味では、『ロスト』もそうですが、呉さんは謎の風呂敷を広げていくのが上手だなって思います。

下村敦史氏

 僕は色々と趣味が変遷していて、もともと有栖川有栖さんたちの「新本格ミステリ」からスタートして、大沢在昌さんや藤原伊織さんの『テロリストのパラソル』といったハードボイルドを読みながら、次は「メフィスト」にうつるというアクロバティックな転換をしつつ、その次は横山秀夫さんという感じに。

なので、一口にミステリーと言っても雑食なんですが、やっぱり、人間とか大きな意味での「世界の不可解さ」というものを提示する上で、ミステリーというのは本当に優れた方法だと思っています。そういう意味で、不可解さを露わにしたいという欲望があるんですよね。でもそうすると風呂敷を広げてもたたみたくなくなるんです。だってもともと不可解なものを描きたいんだもんってなっちゃって。

下村 実は、呉さんの作品を読んでいて、僕と呉さんだと作風は結構違うと思うんですが、何か根本で波長が合うところがあって、テーマの描き方も含めてしっくりくるなって思うことがよくあるんですよ。呉さんのお話をきいていると、読書傾向が横山秀夫さんや大沢在昌さんとか、僕とかなり近いですね。その辺が感性が似ているところなんですね。

 僕はそこに「メフィスト」が入ってねじれたなと(笑)。でも、たまに怖い時がありますよね。僕と下村さんの中で、層が三つぐらいあって。ボトムの人間的、価値観的なところは違っていて、二層目の「どんなものを扱うか」の部分はかなり近い。

そして一番表層の「どう扱うのか」というところがまた離れるんですよね。この二層目、題材の選び方が憎らしい。だからあんまり仲良くしていると、話したことから同じような発想をしてしまいそうで、嫌ですね(笑)。

下村 僕は昔マジックをやっていたことがあって。色々練習するわけですが、人を驚かせるのが楽しくて好きだったんですね。でも僕がマジシャンに一番向いていなかったのは、驚かせたあとに種明かしをしたくなるんですよ。種明かしをすると、中にはそんな盲点をついてうまいと言ってくれる人がいますが、その人はミステリー脳ですよね。

驚かせて種を見せたくなるというのは、マジシャンとしては欠点かもしれませんが、性格的にはミステリー向きだったのかなと思います。だから広げた風呂敷をどうたたむのかをよく考えるんですが、逆にそのことを意識しすぎて、自分の中で枷になっているところがあるなと最近は思います。

本来ミステリーはもっと自由なもののはずで、乱歩賞は比較的王道なものが多いと思うんですが、他の賞の一次通過作のあらすじなんかをみていると、よくこんなとんでもない、面白い発想をしているなというのがあって。それを見ていると、自分は突飛な発想はできないよな、真面目すぎるよなって思います。

 そこら辺は今後変えていこうと思っているんですか?

下村 そうですね。挑戦してみたいですね。

 下村さんの作品は安定感が半端じゃないですよね。僕なんかは結構グラグラさせながら進む方が好きだし、多いんです。だから、えらそうなことを言ってしまうと、別に風呂敷をたたむ必要があるの?みたいな部分もどこかにあって。それが良い方向にでれば、何か面白い自分の作品が書けるのではないかと思うのですが、そのバランスはなかなか難しいので、書きながら考えていくことになるかなと思っています。

これからの課題ですね。でも、綺麗にたためたらいいのかっていうと、個人的には必ずしもそれが自分の作品だとは思っていないので。でもまぁ、最低限たたまないとな。意味分かんないってなっちゃいますよね。