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一風堂ニューヨーク店の成功でわかった、日本人の「ヒドい勘違い」

日本ブームで何でも売れる、は大ウソ
ムーギー・キム プロフィール

「和牛」を宝飾品と同様に扱う発想

②ストーリーを語る~和牛とラーメンがニューヨークで売れているワケ

「日本で人気」と言えば、アジア圏なら売れるかもしれませんが、ニューヨークではそうはいきません。あらゆるモノやサービスが身のまわりに揃っているニューヨーカーは、商品を買うにあたってあっと驚くようなストーリーを求めています。買い手にとって、その商品を買うことがどのような体験なのかをわかりやすく伝える必要があります。

 

たとえば、「和牛」に関する私の経験をご紹介しましょう。

ニューヨークでは、和牛の値段は米国産高級ステーキ肉の3倍はします。そこで、近所のスーパーの陳列棚に並べるような売り方ではなく、洋服や宝飾の高級ブランドと同じように扱う必要があると考えました。

具体的にはどうしたかと言うと、タキシードを着たウェイターが和牛を桐の箱に入れて顧客に見せつつ、「この牛にはビールを飲ませ、モーツァルトを聴かせて育てたんです」といったエピソードを披露し、注文する時点からスペシャルな体験を演出しました。

ストーリーを変えることで、同じ商品でもこれまでと違う価値をアピールして買ってもらえるようにもなります。

「一風堂ニューヨーク店」の成功に学ぶ

ラーメン「一風堂」はこの点でとても成功しています。

一風堂ニューヨーク店は、混雑時には席に着くまで60分待ちという超人気店。待ち時間はウェイティングバーでカクテルを飲みながらゆっくりと過ごします。日本人の抱くラーメン店のイメージからは遠く離れた、おしゃれなデートスポットなのです。

一風堂ラーメン日本では1杯1000円以下のラーメンも…… photo by gettyimages

席に着いたら、まずは前菜をつまみながらワインを飲み、落ち着いたところでラーメンを食べて、最後にデザート。みなフルコースのディナーを2時間かけて楽しんで帰ります。ラーメン1杯で20ドル、お酒も合わせると2人で合計150ドル支払うこともざらにあります。

日本では、ラーメン1杯1000円以下という感覚が染み込んでいますが、アメリカ人にはそういう思い込みはありません。日本人がおしゃれなイタリアンで前菜・パスタ・デザートにワインを飲むデートに2人で1万円使うのと同じ感覚で、ニューヨーカーにラーメンを食べてもらうことに成功した一風堂の作戦勝ちです。

海外現地に住んでいる人と同じ視点に立って日本を見つめ直し、相手があっと驚くようなストーリーを生み出すことができれば、日本で売られているのと同じ商品を別の付加価値があるものととらえて、喜んでお金を払う人たちがいるのです。

③失敗をおそれないガッツを持つ~優秀さより、ガッツが重要

アピールポイントが見えてきたところで、次はどう売り込んでいくかです。この問題の最良の解は、失敗を覚悟で「数を打つ」ことでしか見つかりません。失敗しても失敗しても、トライをくり返すことです。

私もこれは苦手でしたが、同僚のインド人が目を覚ましてくれました。彼は自分の営業のため、片っ端から電話しまくっているのです。そのしつこさで嫌がられることも多いのですが、コンタクトする量が多いので気がつくとトップクラスの売り上げを達成していました。

受注確率を上げるよりも、圧倒的なコンタクト量を作るほうが受注を増やすための近道だと、彼のおかげで気づかされました。実際やってみると、やはりことごとく断られるのですが、「ニューヨークは失敗が許される街だからハートを強く持て」「失敗の量が少ないやつは成功しない」と同僚や上司に励まされ、とにかく続けています。

「とにかく数を打て」だなんて、MBAホルダーの体験談なんだから、もっと深みのあるサジェスチョンを……と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかしこれこそが、私がインシアードに入学して間もなく教わったことなのです。
 
インシアードに留学して最初に受けた講義のゲストスピーカーに「インシアードに入学した時点で君たちが優秀なのはわかったから、これ以上の勉強は必要ない。君たちがビジネスで成功するために必要なのは『ガッツ』だ」と言われました。これから勉強しようという人に何てことを言うんだろうとそのときは思いましたが、いまは本当にその通りだと思います。