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ノルディック複合、欧州勢が警戒する「アキト・ワタベ」の強さ

「プレッシャーは感じない」
松谷 誠治朗 プロフィール

上位20人中、ただ1人のアジア人

だが、ワールドカップが白馬で開かれたとしても、このスポーツは、他の多くの冬季五輪競技と同じように、本来的に欧米人のものである。

彼らが考え出し、彼らが運営して、彼らが戦っているというのがその圧倒的な姿だ。

ノルディック複合に限って言えば、ヨーロッパ人の競技と言ってもいい。

最新のワールドカップランキング上位20位までに入っている選手は国別に、ドイツ5人、ノルウェー4人、フランス4人、オーストリア2人、フィンランド、エストニア、イタリア、チェコが1人ずつ、つまり19人がヨーロッパ出身だ。ところがそのリストの中に1人だけアジア人が、それも第1位にいるのが渡部暁斗選手なのである。

そのあたりの事情を、白馬大会の試合後の記者会見で渡部選手はこう表現した。

平昌では欧州勢にマークはされると思うが、それは以前からずっとそうだ。それぞれが自国のチームスタッフの強力なサポートを受けている彼らからすると、アジア人で大きなチームもない自分がなぜ勝っているのか、不気味なやつ、という感じでいつも警戒されていると思う

 

白馬に来なかった欧州勢

年間20戦程度開かれるワールドカップのほとんどは欧州が舞台で、日本では開催されない年も多い。白馬で開かれるのは今回15年ぶりのことだった。

ジャンプ団体金メダルで沸いた20年前の長野五輪で5万の観衆で興奮のるつぼとなった競技場も、あっという間に老朽化が進み、毎年のように改修を要求するFISのジャンプ台基準に適合しなくなっていた。

それがふるさと振興の起爆剤にと望む自治体の努力もあって、滑走路を氷結させるクーリングシステムの導入などが進み、再び開催が可能になった。

そして平昌五輪が開かれるのに合わせて、その前の週、白馬でワールドカップが開かれることになったのだ。

渡部選手は白馬村で生まれ育ち、長野五輪の日本選手の活躍を見てノルディック競技を志し、五輪のメダルを争うことになったという選手だ。

「地元の白馬で試合ができたのは、本当にめったにない機会で、多くの人に見てもらって本当に良かったと思います」と言う通り、地元開催での思い入れは強い。

渡部選手は試合会場で観客たちひとりひとりと素手でハイタッチをするファンサービスを見せた。

渡部選手〔撮影〕筆者

その熱心さは、五輪1週間前のこの大切な時期に、そんなに多くの人と身体的接触をしてインフルエンザにでもかかったらどうするのかと心配したくなるほどだった。

渡部選手がそこまでするのは、この欧州起源のスポーツを、「謎のアジア人」である自分が第一人者であるうちに、「日本やアジアのスポーツ」でもあるように少しでも近づけたいという気持ちがあるからではないだろうか。

久々の白馬開催のワールドカップが盛り上がり、自分も活躍すれば、ノルディック複合における日本の存在感をアピールすることができる。

実は今回、欧州の有力選手たちは自国での五輪に備えた調整を優先して、白馬での戦いを回避した。ランキング10位に入るような選手は渡部選手以外にエントリーを予定しなかった。渡部選手はそれをこう言って残念がる。

いつもヨーロッパではもっと強いメンバーでつばぜり合いをしているんです。その意味では今回この白馬で本当のノルディック複合をみなさんにお見せできたわけではりません。

将来は、札幌、白馬でワールドカップの個人戦4連戦を組んでアジアシリーズとしてほしい。そうすれば、総合優勝を狙う欧州勢も(ポイント獲得の機会喪失を恐れて)スキップできないので、本当の複合競技を見てもらえると思います

かつて冬季五輪を開いた日本の二つの開催地で、毎年そのような形でワールドカップが開催され、世界最高峰の戦いに多くの日本の観衆が声援を送るようにしたいという構想なのだ。