ホステスのタイ人妻に支えられる月収10万円男の「幸福とため息」

寂しき日本人たち②
水谷 竹秀 プロフィール

「早く転職して楽になりたいけど…」

見た目のラフさとは裏腹に、田中は誠実そうな若者である。こちらの質問に対する答え方は丁寧で、相手の目を真っ直ぐにみて話す。

「午後7時に業務が終わっても仕事をした感じが全くない。だからこの給料かなと。そやったらもうちょっとしんどい思いをしてでも高給がいいです。製造業に携わっていた僕としては今の業務は達成感がない。電話の向こうで相手がどんな顔をしているのかも分からないし、やりがいがないんです」

コールセンターの業務にやりがいを感じているオペレーターは、私の取材した限りでは少なかった。掛かってくる電話を受け続けるという単調さがその原因だが、一方で、残業もなく、仕事に対する責任をそれほど感じなくても済む「気楽さ」という認識も共通しているようだった。

「今は生活がやばいのでコールセンターの仕事でもやらないとしゃあないんですよ。仕事に文句を言っている場合でもありません。ですが今の給料ではとてもやっていけません。子どもも学校に行けない。転職して給料を上げないと生活がマジでやばいですね」

 

田中は倹約生活を送っていた。朝ご飯は食べずに出勤する。昼食は屋台で35バーツ(約120円)の焼き飯などで済ませ、飲み物と合わせても50バーツ(約170円)以内に抑えている。夜は妻の甥が屋台で買ってくるおかずとご飯を食べる。ここ半年で日本料理店に行ったのは2回。いずれも友人たちからおごってもらった。

「まあ特に日本料理を食べたいとは思いません。まず高い。タイ料理も好きなんで。食に関しては贅沢をしたいとは思わないです。食べることができて腹がふくれたらそれでいいかなあと」

あと数年もすれば娘は幼稚園に通う。妻のメイもそのことを心配していたが、田中がコールセンターで働き続け、娘をタイで育てるのであれば、子どもの教育問題はいずれ直面するだろう。

「独身だったらこの仕事でも仕方ないと思えますけど。今は正直、しんどいです。僕が転職して給料の高い仕事に就かないと妻も仕事辞められないんです。早く転職して楽になりたい。だいたい妻が帰ってくる時間も遅いですし」

田中は腕を組みながらしかめ面をした。そして私にこう尋ねてきた。

「人材紹介会社の人を誰か紹介して頂けませんか?」

その眼差しは弱々しく、藁にもすがりつきたくなるような思いが滲み出ていた。

田中は高校を中退しているから、最終学歴は中卒だ。妻とは日本語で会話をしているため、タイ語は一向に上達しない。だからもし、私が人材紹介会社の担当者を紹介できたとしても、職探しは難航する可能性が高いとみられた。

「奧さんはタイ人だから、とりあえずはタイ語を徹底的に勉強されたらどうでしょうか?」

酷な言い方かもしれないが、私はそう答えるのが精一杯だった。

コールセンターで働く日本人の姿を描いた話題の一冊