翻訳家・岸本佐知子が子供の頃にハマった外国の本10冊

その世界観に衝撃を受けて
岸本 佐知子

私はリアリズムに則した王道の小説も好きですが、どこか既成のルールから逸脱したものに強い興味を覚えます。それは筒井さんの影響が間違いなくあります。

どんなに書いてある内容がよくても、文章が受け入れられなければ一行も読めないし、逆に文章が合えばどんなにくだらなくても好きなんですよね。それだけに、今回選んだ本は文章のリズムや手触りが骨の髄まで沁みついています。

銀の匙』であれば作者の少年時代を慈しむような、情感のある文章が魅力的ですし、『サラサーテの盤』は、たとえば人魂の大きさを「枇杷の葉ぐらいの」という言葉で言い表したりする、そんな不思議なリアリティのある絶妙な表現力が恐怖を増幅させています。

現実離れしたものへの欲求は昔からあり、「普通」からはみ出る事が多い人生で、周りからは引かれることもありましたが、本を読んで変なことを考えるのは自分だけじゃなかったんだ、と「仲間」を認識してその存在に救われました。今もまた、新たな仲間を求めているのかもしれません。(取材・文/若林良)

▼最近読んだ一冊

「人間の生殖方法の違いなど、現実の世界と同じようで、しかしどこか〝ずれ〟のある世界を描いた短編集です。しかし読み進めるうちに、むしろ現実世界の異様さを実感させられるような、見事な逆転現象が起こります」

岸本佐知子さんのベスト10冊

第1位『西瓜糖の日々
リチャード・ブローティガン 河出文庫 780円
すべてが西瓜糖でできた「どこにもない世界」の日常が、しかし、どこか懐かしさを募らせるように綴られていく

第2位『にんじん
ジュール・ルナアル著 岩波文庫 720円
19世紀のフランスを舞台に、「にんじん」と呼ばれる少年が大人たちに翻弄されながらも成長していく姿を描く

第3位『バブリング創世記
筒井康隆著 徳間文庫 入手は古書のみ
私たちが感じている「小説」の概念を覆す。「これまでにびっくり仰天した度合いでは、筒井作品が一番ですね」

第4位『銀の匙
中勘助著 岩波文庫 600円
作者の子供時代が情感豊かに振り返られる。岩波文庫の中でも高い人気を誇る一冊

第5位『蓼喰う虫
谷崎潤一郎著 新潮文庫 490円
関係の冷え切った夫婦の日常生活を通して、人間の「愛」を巡る心情の揺れが描かれる

 

第6位『サラサーテの盤
内田百けん著 福武文庫 入手は古書のみ
日常のそばにある幽玄の世界に、気がつけば入り込んでいるような戦慄を覚える一冊

第7位『眼ある花々
開高健著 中公文庫 入手は古書のみ
著者の世界各国での凄絶な体験の数々を、豊潤な言葉のバレエで綴った傑作

第8位『遊覧日記
武田百合子著 ちくま文庫 700円
「日常の何気ない風景の中に面白さを見出す〝目の良さ〟に驚かされます」

第9位『小僧の神様・城の崎にて
志賀直哉著 新潮文庫 520円
「情景を最短距離でがっと鷲掴みにするような、文章の剛直さに魅力を感じます」

第10位『くっすん大黒
町田康著 文春文庫 450円
「ナンセンスに近い物語、でも意味のないところに言葉が燦然と輝いています」

『週刊現代』2018年2月17・24日号より