韓国で発売「安倍首相暗殺」を予言するトンデモ反日小説の中身

平昌五輪の前にもう一度考えておきたい
竹嶋 渉 プロフィール

安重根は15の犯行動機を長々と列挙するのであるが、これは、実際の安重根が伊藤博文暗殺の15の動機を挙げたことに倣ったものである。もちろん、「モリ・カケ問題」などは含まれていない。安重根の語る犯行動機(もちろん小説上の)を簡単に要約してみる。

① 竹島(独島)に対して領有権を主張している罪
② 歴史教科書を歪曲した罪
③ 日本が国家間の約束を反故にした罪
④ 従軍慰安婦の存在を否定し、少女像の建立を妨害した罪
⑤ 河野談話を否認した罪
⑥ 731部隊を否定した罪

⑦ 太平洋戦争を引き起こした過去を反省しない罪
⑧ 靖国神社に参拝している罪
⑨ 日本の若者を右傾化させ自らの私兵としている罪
⑩ 平和憲法を改悪しようとしている罪
⑪ 尖閣列島に対して領有権を主張している罪
⑫ 自衛隊を増強している罪
⑬ アメリカの権威を借りてアジアの平和を脅かしている罪
⑭ 良心的な日本人を迫害し、極右をのさばらせている罪
⑮ 日本国民に好戦的な思想を吹き込み、戦争への熱望を吹き込んでいる罪

photo by gettyimages

これを読むと、著者、ひいては一般の韓国人の考える「日本の罪悪」なるものがいかなるものなのか、よく理解できる。もちろん虚実ないまぜである。

③について言うならば、「日韓基本条約」や「慰安婦合意」などの国家間の約束を反故にしたがっているのは韓国人の方であろう。

④⑤について言えば、安倍首相は従軍慰安婦の存在について否認したことなどないし、河野談話を否定したことなどはない。

⑦についても、終戦にあたり全国戦没者追悼式などで「戦争の惨禍を二度と繰り返してはならない」などと述べていることは今さら言うまでもない。安重根、というか著者が知らないだけである。

⑨⑮は意味不明。今時、「戦争をしたい」などと熱望している日本人など、どこにいるのだろうか。

⑭はヘイトスピーチ問題を指すものと思われるが、自民党も賛成して、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」が成立し施行されていることは周知のとおり。

⑬について言えば、「東アジアの平和を脅かしている」のは安倍首相ではなく北朝鮮の独裁者のほうであることは、世界の常識であろう。そうした脅威があるから、日本の防衛力は強化され、憲法改正も国民からある程度の支持(全幅の支持とは言い難いが)を得ているのである。

このように、安重根の語る「安培の15の罪悪」は、それが虚実ないまぜであるが、大多数の韓国人が共有する「安倍首相に対する思い込み」と合致するため、読者の共感を呼ぶには十分なのである。

 

執筆動機も「印象操作」の結果

この小説の著者は出版当時57歳だった小説家のキム・ジョンヒョン氏。韓国ではそれほど知られた作家ではないが、本職の小説家である。しかし、紹介した内容からわかるように、この作品は到底、本職の作家が書いたとは思われないほど荒唐無稽で稚拙な内容である。

小説のあとがきによると、キム氏は20年ほど前から安重根をテーマに作品を書こうとしていたという。しかし、ただ単に安重根の行跡をたどるだけでは、単なる偉人伝になってしまう。

そこで、敢えて安重根を現代に再生させ、安培首相を狙撃させることで、独自性を打ち出そうとしたようである。小説の出版に当たって、著者は「今、この時代、誰かが安倍首相を撃とうと武装闘争を試みても、それは難しい。だから安重根を復活させた」と語っている(2014年8月14日付け朝鮮日報)。

そうすることで、一般の耳目を集め、読者の歓心を買うこともできると判断したのだろう。ちなみに、小説の「あとがき」に当たる部分で著者はこの小説に安重根を登場させた動機について次のように語っている。