養老孟司が死ぬ前に言っておきたい「たった一つの願い」

80歳の叡智がつまった『遺言。』
養老 孟司 プロフィール

なぜ子どもが生まれないのか

―本書では、「お金」もこの「同じ」という発想から生まれたものだと語られています。

もともとお金には、それで買える物と同じ価値がなければなりませんでした。Aという肉とBという魚に「同じ」価値があり、交換できる。だから、その肉や魚と同じ価値の金貨や銀貨が作られたわけです。しかし、考えてみればお金そのものに、価値を持たせる必要なんてない。

 

以前、東大の経済学部長を務めた岩井克人さんが、お金とは「と思っていると思っている」構造に基づいていると言っていました。店で1万円札を受け取ってくれるのは、店の人もその1万円札が1万円で通用すると思っているから。でも、1万円札はただの紙で、実際に1万円の価値なんてないでしょう。そう考えると、ビットコインのような仮想通貨が生まれるのも自然な流れなのです。

―日本社会の深刻な問題である、少子化問題も、意識の側面から考察されているのが印象的です。

意識は自然をどう扱っていいか分からないので、改変しようとする。だけど、子どもの先行きは育ててみなければ結果がわからない。途中で死ぬかもしれないし、犯罪者になるかもわからない。意識は、そんなリスクの高いものを扱いたくないわけです。だからこそ、今の若い世代は「無意識的」に子どもを持つことを敬遠しているのではないか、というのが私の仮説です。

―本書の末尾ではそうして「意識の世界だけに住み着くこと」に、警鐘をならしています。

今は会社の同じフロアで働いていても直接話したりせず、メールでやり取りするでしょう。「現物」はノイズだから、意識は触れたくない。こういう、ノイズを避けることを最初に始めたのは医者ですよ。目の前の患者を見ず、カルテや数値だけを見て判断する。

私が「遺言」として言っておきたいのは、意識が排除してきた動物や自然に、もっと関心を持ってほしい、ということです。我々の目も、耳も、外界を把握するためにあるのですから。

自分の内側、意識の中だけに住むのは現代人の病です。べつに、この本でそれが治るなんて思っていません。でも、ちょっと立ち止まって、意識について考えてみるところから始めませんか、とお誘いしているのです。(取材・文/伊藤和弘)

『週刊現代』2018年2月17・24日号より

編集部からのお知らせ!

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/