米国の“鼻血パンチ”作戦で「第二次朝鮮戦争」勃発の可能性

平昌五輪の裏で米中朝が不穏な動き
津上 俊哉 プロフィール

冷ややかな中国の態度

ただ、最近は中国の動きにも、これまでにない不穏なものを感じるようになった。

北朝鮮に対する中国の態度が習近平の下で大きく変わり、「緩衝地帯としての北朝鮮の存在が欠かせない」「米国や日本が北朝鮮に手を焼くことは中国にとって有利」「難民の大量流入はぜったい避けたい」といった従来の見方が通用しなくなりつつあることは、これまでも本欄で述べてきた。

北朝鮮はいまや血で繫がった盟邦でも資産でもなく、負債・リスクそのものになったのだ。

中国の冷ややかな態度も昨年11月を境にいちだんとステップアップした。ちょうど習近平の親書を携えた宋濤特使(共産党対外連絡部長)が金正恩に会えずじまいで空しく帰国した頃だ。

その後、ほどなくして出た「環球時報」の社説(「社評:中国尽力了,美朝出来混各還各的」2017年12月2日 環球時報)が中国の考え方をよく表現している。

「中国はできる限りのことをした。今後米国と朝鮮がどうなろうと自業自得だ」と題するこの社説は、米国と北朝鮮に「フリーズ・フォア・フリーズ=双暫停」などを懸命に働きかけたが、どちらにも受け容れられなかったと失敗を認めた上で、次のように述べている。

「今後事態はますます困難になるだろうが、中国は力の限りを尽くしたのだ。今後中国にできることは己の原則のボトムラインを守って、できるかぎり緊張の緩和に努めると同時に、最悪の事態に備えることだ。

もしさらにひどい局面(武力衝突)が発生すれば、中国はそれに正面から向き合うだけだ。その備えはじゅうぶんにできている。中国の強大な力は全局面で我が国家利益を守るために何のためらいもなく発揮されるだろう」

「かくなる上は、中国の国益を守るだけだ」という妙にさばさばした感覚が気になった。

 

その数日後、北朝鮮と国境を接する吉林省の地方紙が一面を全部使って、核攻撃防護方法の解説を掲載したことが話題になった(「吉林省の共産党機関紙、核兵器防護法を特集 最悪の事態想定?」2017年12月7日、毎日新聞)。

10日後には中国が中朝国境地帯で北朝鮮難民を収容するキャンプ設営の準備をしているというニュースも駆け巡った(「中国が密かに難民キャンプ建設──北朝鮮の体制崩壊に備え」2017年12月14日、ニューズウィーク日本版)。「最悪事態」への備えが現場に及び始めたということだろう。

有事の役割分担を話し合う米中両軍

昨年9月4日の本欄で「非現実的でトンデモな論議かもしれないが」という断り付きで「米中連携による軍事オプションの可能性」に触れたことがあるが、その後の展開を見ると、どうやら現実になりつつあるらしい。

12月中旬ティラーソン国務長官がある会議の席上、北朝鮮有事、とりわけその際の核兵器確保のためにどう対処すべきかを中国と協議しており、中国側に対して「米国は北朝鮮の体制崩壊や朝鮮半島統一を目指してはいない」ことを説明、「仮に38度線を越えざるを得ない事態が生じても状況が許す段階で軍隊を38度線の南に戻すと請け合った」と述べたという("A Tillerson Slip Offers a Peek Into Secret Planning on North Korea"2017年12月17日、ニューヨークタイムス)。

最近、懇意の中国人研究者にこの発言を取り上げて水を向けたところ、この研究者は次のように述べた。

「米中軍当局者の協議は昨年8月北京で、及び11月にワシントンでと、最低2回行われている」(8月について:「北朝鮮有事の際の連携を確認、米中の意図は-米軍制服組トップが中国を訪問」2017年8月17日、ウォールストリートジャーナル、11月について:“U.S. and China hold security talks amid tensions over latest North Korea missile test”2017年11月29日、The Star

「しかし、有事対応については、米軍内部も十分に意思統一できていないらしい。例えば空軍は中朝国境に近い地域の制空・安全に自信が持てないため、当該地区にある核施設(核施設のあらかたがここにある)を確保する任務は人民解放軍に委ねたい意向だが、陸軍は『極力我々側がやるべきだ』という考えで、空軍の意向に反対している。

しかし、陸軍は地上作戦を米国兵士ではなく韓国軍にやらせるつもりだ。だから空軍は、自分たちはリスクを冒す気がないのに空軍には危険な作戦をやらせようとする陸軍への反発が強まっているそうだ」

どうしてそんな内情まで知っているのか。

この内話が真実である確証はないが、少し前まで北朝鮮に関する伝統的な考え方の束縛を受けていた中国では、米国側がそんな話題を少しでも持ち出せば、中国側出席者は血相を変えて席を立ち(逃げだし)かねなかったはずだ。筆者は「協議はほんとうに進み始めたのではないか」とショックを受けた。

それと同時に、文在寅政権が「戦争だけは避けたい」と危機感を強めているのは、ブラッディ・ノーズ作戦を公然と語る米国情勢だけが原因ではない。従来なら「そんなことはさせない」と反対したはずの中国まで態度が変わったことで、いよいよ危機感を煽り立てられているのだろうと感じた。