「信じられる人はいますか?」

レイから学んだのはかけがえのないことです。

親がいつも側にいなくても、勉強ができなくても、貧しくても、発達障害というレッテルを貼られても、一人の子が安心して学べる居場所がある、ただこれだけで、この子は安心して自分が育つという事実を作ったのです。ですから中学で体罰を受けても、「担任の先生が苦しくなるから行くのを止めよう」と考えられるのです。

大阪には、基礎的な学習を学び直すことのできる高校があります。レイはその公立高校に合格しました。今では、自転車で高校に通い、毎日高校から大空に戻って来て、大空小学校でボランティアをしています。

もちろん私はいません。今の大空は校長が変わり、教頭が変わり、職員の3分の2が変わっています。それでも理念はひとつですから、たとえぶれることがあっても戻るのです。レイはその職員室にひとりのボランティアとして加わっているのです。

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虐待を受けるような問題にさらされたことのある子どもたちにとっては「酷」ともいえる、あるアンケートがあります。大人に裏切られたことのある子どもたちに、「あなたはこれまで生きてきた中で信じられる人がいましたか」と問うのです。そのアンケートではほとんどの子が「いない」と書くそうです。

しかし、レイは「います」と答えていました

「それは誰ですか?」とアンケートはさらに問います。レイは何と書いたでしょうか。「大空の先生」?「校長先生」? いえ、違います。

レイは、「大空の人たち」と書いたのです。「人たち」というのは、レイの周りにいつもいた、「大空をつくっている大人たち」なのです。先生はたった一握りです。

レイは、ぶれそうになった私の心を何度も揺り戻してくれます。
教育の原点は、ここを外して未来はないということの、確信をもたせてくれるのです。

今、レイには夢が二つあるそうです。一つは困った子どもを支える施設で働く人になりたいというもの、もう一つは大空の地域で暮らしたいというものです。

大空小学校は、「当たり前の教育」をしています。そんな「当たり前の教育」の中で、すべての子どもたちが地域の学校に居場所を作り、自分から自分らしく「未来の自分」を誇らしく感じられるような学びができることを、私は心から願っています。


映画『みんなの学校』

「不登校も特別支援学級もない、同じ教室で一緒に学ぶふつうの公立小学校のみんなが笑顔になる挑戦」。テレビドキュメンタリーを作成したチームが、2012年からの一年を追い続け、作成した映画。通常ならば撮影カメラが入ると子どもたちはそこに近づいてくることが多いが、大空で撮影カメラを回しても、生徒たちはまったく動じることはなく、勉強に集中して普段の生活をしていたという。上映会を個別に依頼することも可能だ。(詳しくは映画公式HPをご覧ください)

映画『みんなの学校』のドキュメンタリー内容をベースに、木村さんがどうやって「当たり前の教育」をするようになったのかも綴られている。教育実習生のときの一人の先生との出会いをきっかけとして自身が子どもたちと触れ合いながら探り、身につけていった、大空小学校の前から実践してきた教育の姿勢は必読。「学び」とはこういうことなのかという本質を教えてくれる一冊だ。