photo by iStock

「発達障害」の大人が生み出した、ちょっと複雑なセルフケアの方法

その後の僕とお妻様【後編】

現代ビジネスの好評連載『されど愛しきお妻様』(以下『お妻様』)が大幅加筆を経て1月24日に書籍化、そして早くも重版出来! たくさんの読者の方から反響をいただいています。そんな『お妻様』の“その後”、昨日に引き続き待望の後編公開です!

*前編はこちら⇒ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54380

心が辛いときは空を見よう

我が家の新課題。注意障害持ちのお妻様に、セルフケアーー自分自身を注意し整える習慣を、どのように学んでもらえば良いか? 新たな課題を前に、「ある出来事」を思い出した僕は、思考が行き詰まってしまった。

話は僕自身が高次脳機能障害を抱えて日々パニックの発作に襲われていた時期に遡る。

それまでの能天気な人生でパニックらしいパニックを経験したことがなかった僕は、病後に初めて経験することとなったリアルなパニックに、多いに混乱し、悶絶した。

理由もないのにただ不安や怯えのような感情が心を満たして、辛くて仕方がない。まるで車の運転中に目の前に子どもが飛び出してきた瞬間の「ひゃっ!」と息をのんだ状態がずっとずっと続いているような、心が竦んだ緊張状態が延々続くのだ。

そして思い出したくない、考えたくないマイナスの思考を始めると、その思考を切り替えることもできない。耳の横で黒板を爪で引っ掻かれ続けて、そこから自力では逃げ出せないような、底なしの不快感……。

だがそんな状況でハアハアしている僕に、かつて自身もパニックを抱えていた経験者であるお妻様は、こんなアドバイスをしてくれたのだ。

「大ちゃん、心が辛いときは空を見ようよ。ほら、雲の形がどんどん変わっていくよ。観察観察!」

photo by iStock

そういいながら、空を見て立ち止まり、ハアハアと呼吸の一回一回が溜息みたいになっちゃう僕の背中を、お妻様は淡々と撫で続けてくれた。

いずれもかつてお妻様自身がメンタルを病んでハードなリストカッターだったころに、「それで自分は楽になった」という経験から来たアドバイスとケアなのだが、確かにこの空を見ることと背中を撫でてもらうことは、僕の抱えたパニックの苦しさを、劇的ではないにせよ緩和してくれたように思う。

けれども、なぜそんなことで僕は楽になったのか。これはやはり、「注意」の解釈で理解がつくと思う。パニックに陥ったりマイナス思考の渦から抜け出せない状況とは、つまり自分の内側の思考に向かう注意が偏ってしまって、それをキャンセルできない=注意障害における「シングルフォーカス」と呼ばれる症状。

それに対し、お妻様の提案してくれた緩和策とは、この自分の内部に向かう注意を逆方向=自分の外側の世界にぐるっと方向転換させる行為だと考えられる。刻々と変わる雲の形を観察することも、自分の背中を撫でてくれる手の暖かさや刺激に集中することも、注意力の方向を外向きに逸らす効果があり、結果として僕は苦しさが緩和するように感じた。

 

そう。間違いなくこれは、過去に自分の内部の苦しさを直視したら壊れてしまうような時期を過ごしたお妻様が、自衛手段として生み出したメソッドだろう。

実際いまも、お妻様は具合が悪いときに限って滅茶滅茶ゲームに集中するし、やたらに猫を撫でまくり、しつこく猫語で会話を試みているし、普段から目の前のもの(特に生き物)を観察するのが好きで、長時間かけて信じられないようなディテールまで見ているところがある。

自分の世話はそっちのけでペットの世話や生き物の観察。居間の蔵書も鳥や昆虫なんかの図鑑でいっぱい。

自分の内側より外側の世界に意図的に注意を偏よらせることで、心のバランスをとってきたのだと思う。