ゼロからわかるシリア情勢と米露「新冷戦」の危うい現在

アメリカがはまった袋小路
笠原 敏彦 プロフィール

シリア内戦の「いま」

トランプ大統領は一般教書演説で「我々はIS支配地域をほぼ100%解放しつつある」と語った。

しかし、シリア情勢は一層混沌としているのが現状である。

ロシアやアメリカ、イラン、トルコ、イスラエルなどがそれぞれの思惑から手を突っ込むシリア情勢は、まさに21世紀前半の地政学の縮図である。

シリア情勢の全体像を把握するのは容易ではないが、紛争の概略から簡単に抑えていきたい。

混迷への流れはざっとこうである。

「アラブの春」に触発された民主化運動をアサド政権が弾圧したことが内戦へと発展し、そこにイラクとシリアにまたがる国家建設を目指すISなどのイスラム過激組織が加わり、アサド政権、反政府組織、イスラム過激派の「三つ巴」の展開になる。

アメリカは2014年9月にシリアのIS支配地域への空爆を始める。アメリカはアサド退陣を求めて反政府勢力を支援してきたが、軍事介入の目的はあくまでIS掃討であるとした。

 

これに対し、劣勢だったアサド政権側ではイランに加え、ロシアが2015年9月から後ろ盾となって参戦し、ISと反政府勢力から失地を次々と回復。一時は絶体絶命と見られたアサド大統領だが、現在は国土と人口の半分ほどまで支配を回復している。

ここが潮時と見たプーチン大統領は昨年12月、シリアを電撃訪問してロシア軍部隊の撤収開始を表明することで事実上の「勝利宣言」を行い、和平プロセスのイニシアチブを握ろうとしている。

ここまでが紛争の大きな流れである。

プーチン大統領とアサド大統領シリアを電撃訪問したプーチン大統領。左隣に立つのがシリアのアサド大統領〔PHOTO〕gettyimages

しかし、この経過の中で、シリア内戦がより深刻な地域紛争に拡大しかねない新たな混迷の種がまかれていたのである。

アメリカがIS掃討のためにシリア国内のクルド人民兵組織「人民防衛隊」(YPG)を連携相手として選び、軍事訓練や武器供与などを行ってきたことだ。

これは地域事情を無視した仁義なき選択である。

なぜか?

クルド人はシリア、イラク、トルコなどの国境地域に住む「国家を持たない最大の民族」とされ、国境を越えて独立、自治拡大運動を続けている。

その中心的組織がトルコで武装闘争を続ける「クルド労働者党(PKK)」であり、YPGとの密接な関係が知られている。

一方で、トルコはアメリカを盟主とする北大西洋条約機構(NATO)のメンバーであり、アメリカの中東政策において戦略的に重要な国である。

つまり、アメリカは自らの首を絞めるかのように、同盟国トルコの「敵」を武装強化してきたのである。

NATOの集団的自衛権の観点から言えば、矛盾に満ちた政策であることがわかるだろう。

そして、IS掃討作戦が一段落したことにより、この矛盾が弾ける。