好調な経済、大型減税の実施……。トランプ米大統領が就任1年目の“実績”を自画自賛した先月30日の一般教書演説は、理想主義を失った「コーポレート・アメリカ(アメリカ株式会社)」の祝勝会のように見えた。
このコラムでは、演説で語られたことではなく、語られなかったことから見えてくる世界の在り方について考えてみたい。
一般教書演説は、アメリカの大統領が今後の内政・外交の優先課題を示すものだ。逆に言えば、演説で触れられなかった外交・安全保障の課題は優先度が低い、もしくは、関心が薄いということである。
外交・安全保障とは国益に基づく優先順位の問題であるが、超大国の誤った優先順位は世界を混迷に導きかねない。
その例としては、イラク戦争を挙げるだけで十分だろう。
こう指摘した上で、トランプ大統領が一般教書演説で触れた外交・安全保障分野の課題をすべて拾ってみると、次の7つである。
・中国、ロシアとのライバル関係
・核兵器を中心とする軍事力強化
・過激組織「イスラム国(IS)」掃討など対テロ戦争
・対外援助を親米国だけに限定する法律の制定
・イラン問題
・独裁的なキューバ、ベネズエラへの対応
・北朝鮮核問題
核ミサイル開発を進める北朝鮮問題に重点が置かれたことは報道の通りだが、指摘したいのは、重大な局面にあるシリア内戦への言及がなかったことだ。
2011年の内戦突入から7年を迎えるシリア。死者50万人、国民の2人に1人に当たる1100万人超が難民・国内避難民となり、第二次大戦後最悪の人道危機とされる内戦は、「イスラム国(IS)」掃討後をめぐり岐路にある。
この問題に全く触れないというのはどういうことなのだろうか。
筆者には、語られなかったことが逆に多くのことを物語っているように思える。
シリアの現状から順を追ってみていきたい。