あなたをアップグレードするための「12の哲学最新ワード」教えます

効果的な利他主義ってわかりますか?
小川 仁志 プロフィール

新しい幸福の形を

ここで予め『哲学の最新キーワードを読む』の全体像を概説しておきたい。この見取り図に沿って、関心のある項目から読み進めてもらえばいいだろう。全体は〈多項知〉を構成する四つの知をそれぞれ柱にした四部立てになっている。

まず第I部「感情の知」では、文字通り感情に支配される昨今の政治状況を分析する。とりわけトランプがアメリカ大統領になったことで注目を浴びる、ポピュリズムやポスト真実(トゥルース)、反知性主義といった概念を中心に、分断する政治の乗り越えを模索する。

また、再魔術化とも称されるように、地球規模の宗教対立が再燃している現状を分析し、宗教対立への処方を試みる。同時に、アートが社会や政治に影響を与えている事例に着目し、ボリス・グロイスの「アート・パワー」に代表される芸術の可能性にも言及したい。

続く第II部では、「モノの知」について紹介していく。ここでは今哲学の世界で起こっている新しい潮流、思弁的転回について、その理解を深めていきたい。具体的には、この新しい知の流れを作り出した張本人といってもよい、カンタン・メイヤスーの思弁的実在論を紹介する。

その後で、メイヤスーの反転バージョンともいわれるグレアム・ハーマンらのOOO(トリプル・オー)について言及する。さらに、人間中心主義を改めようとする新しい唯物論の流れについて、そのパイオニアであるマヌエル・デランダの思想を中心に論じていきたい。

第III部「テクノロジーの知」では、まず今ビジネス界において最もホットな話題の一つといってよいAIについて論じる。人工知能の能力が人間の知を超える臨界点ともいうべきシンギュラリティ。その後の時代を意味するポスト・シンギュラリティが、もう目の前まで迫っているとするレイ・カーツワイルの議論を中心に考察していく。

 

また、IoT(モノのインターネット)やSNSをはじめ、日常、ビジネス、そして政治にも不可欠なインターネットについて、その抱える問題と展望をできるだけ多様な視点から紹介していきたい(フィルター・バブル)。最後に、そうしたインターネットをはじめとしたテクノロジーのせいで、私たちからプライバシーを奪い去る超監視社会の現状について、ブルース・シュナイアーなどの議論をもとに検証していく。

第IV部「共同性の知」では、まず、脱原発や環境問題など国論を二分する問題に関して、積極的な妥協によって対立の克服を試み、連帯を模索するプラグマティズムの最新の議論を紹介する。

また、ポスト資本主義社会に共有がもたらす可能性について、シェアリング・エコノミーの現状を検証していく。最後に、自分と他者を同時に幸福にするための提案として、ピーター・シンガーの「効果的な利他主義」がどこまでの射程を持つのか考察したい。

以上の12項目にわたる分析を通じて、感情の知、モノの知、テクノロジーの知、共同性の知という四つの知を多項式のように接続したとき、はたしてどのような公共哲学が構築され、どのような解が浮かび上がってくるのであろうか。

新しい時代を生き抜くためにはどうすればいいのか。最後まで読み進んでいただければ、その解はおのずと見えてくるに違いない。

最後に、タイトル『哲学の最新キーワードを読む』について一言だけ触れておきたい。哲学に詳しい方ならおわかりかと思うが、本書で扱ったキーワードは、必ずしもすべてが哲学の分野の最新キーワードというわけではない。

ただ、いつの時代も、哲学以外の分野のキーワードが、時間と共に普遍性を帯び、やがて哲学用語になった例は枚挙にいとまがない。したがって、ここで取り上げた12のキーワードが、やがては哲学のキーワードとしてカテゴライズされる日が来るものと確信している。ぜひ時代を先取りするつもりで読んでいただきたい。

私の専門とする哲学の分野では、自ら考え、自ら解を出すことを奨励している。哲学の父ソクラテスがそうであったように、哲学者の仕事は対話の相手が自ら解を導き出す手助けをすることだけである。

その意味で、私のまとめはもはや不要かもしれないが、あくまで一つの提案として、新しい公共哲学に関するさらなる展望を「おわりに」に記しておいたので、参考にしていただけると幸いである。

新たな時代に突入するときは、常に不安と期待が入り混じるものである。しかし、そんな瞬間にはそうしょっちゅう出くわすものではない。時代の転換点にめぐりあわせた幸運だと思って、ぜひ拙著を片手に新しい幸福の形を模索してもらいたい。

わくわくするような知的興奮に駆られながら──。

新時代を生き抜くために、最低限おさえておくべき思想がここに!