名護市長選で菅官房長官が仕掛けた「なりふり構わぬ選挙戦術」

「逆転劇」の舞台裏
野中 大樹

徹底した「争点ぼかし」

「名護の比例公明票がかなり増えたんだ。自民党はそれだけ公明党のために動いた」

これは、菅氏のオフレコ発言の一つだ。昨年10月の衆院選で、自民党は「選挙区は自民、比例は公明」を徹底した。沖縄でも例外ではなく、これによって、衆院選での名護市内における比例公明票は前回より約2000票増えた。

「きちっと恩が売れた」(渡具知選対幹部)ことで、公明党が渡具知氏に「推薦」を出さざるをえない環境が整う。その環境づくりに向けては「佐藤浩(創価学会副会長)と長官が綿密に協議していた」(自民党関係者)とされる。

創価学会の根本である「平和主義」を大切にしたい学会員の中には「辺野古基地移設を容認してきた渡具知さんに推薦を出したのでは、組織がもたなくなる」(名護市内の創価学会員)という悲鳴も上がったが、そんな学会員たちの不安を解消する手も準備されていた。

一つは争点をぼかすことである。菅氏は昨年来、オフレコの場でたびたび「稲嶺市長で経済はボロボロ」「争点は町づくりなんだ」と“指示”を出すかのように語っている。1月28日の告示日に渡具知氏の応援に入った三原じゅん子参議院議員は「ゴミの分別が多すぎる」と、環境行政に力を入れてきた稲嶺市政を批判。小泉進次郎氏は「この選挙の争点は町づくりだ」とくりかえし声を上げた。渡具知氏本人はマスコミや学生から上がる公開討論の要請を断り、最後まで辺野古の是非について語らなかった。

 

もう一つ、創価学会員を突き動かしたのが「共産党主導」批判キャンペーンだ。

「『稲嶺の選挙は共産党が主導している。共産党主導の市政を終わらせなければならない』と強調したら、名護市外の学会員さんたちが続々と市内に入ってきて現地の学会員さんの説得に奔走してくれた。共産党と創価学会は水と油。共産党主導と聞いただけで敵対心を燃やす学会員さんが多いんだ。とてもうまくいった」(渡具知選対幹部)

結果、多くの学会員が期日前投票に赴き、渡具知氏に投じたと見られている。投開票3日前の2月2日朝、渡具知選対の朝礼には創価学会の総九州長だった山本武氏があらわれ、こう述べた。

「(稲嶺氏に)ほぼ並びました」

菅氏が「しもちゃん」と呼び、沖縄では一定の影響力を持つ下地幹郎衆議院議員(維新)が渡具知支持を表明したことも大きい。菅氏は常々「沖縄の選挙はしもちゃんに任せれば大丈夫なんだ」とうそぶいている。自民党への復党を果たしたい下地氏にすれば、自民党にできる限りの恩を売っておきたいのが本音だろう。

名護市内における公明票は2000票から2500票とされる。下地氏が持つ票が約1500票といわれており、前回の名護市長選における約4000票の票差は、「公明票」と「下地票」によって埋められたことになる。