アメリカの「対北朝鮮軍事的措置」、実はすでに始まっていた

そうか、あの演習が実は…
山口 昇 プロフィール

今やソウルは「火の海」にならない

1990年代の朝鮮半島危機では、全面戦争の一歩手前まで行った。「ソウルを火の海にする」という北朝鮮の脅しに真実味があり、米国として思いとどまったといわれる。

韓国の専門家によれば、非武装地帯のすぐ北側には今でも、40キロメートル以上の射程を持つ240ミリ多連装ロケット砲や170ミリ自走加農砲が約300門配置されており、短時間に9000発をソウル近郊に撃ち込むことができる。

それぞれの弾頭威力が半径30メーターに及ぶことを考えれば万の単位で犠牲者がでることは想像に難くない。

1990年代と現在では大きな違いがある。先に述べた米韓連合軍の精密誘導兵器の質と量、そして、蓄積してきた情報だ。1000を優に越す精密誘導弾をソウルにとって脅威となる北朝鮮砲兵に指向すれば、その大部分を射撃する前に制圧する可能性は高い。

ロケット砲などの多くは地中の待避壕に隠されてはいるものの、その出入り口を破壊することはさして困難ではないからだ。

もちろん、このような脅威を100パーセント除去することは不可能に近く、残存したものがソウルに到達する可能性は大いにあると考えるべきだろう。

そのような場合には射撃した瞬間に位置が特定されるので、米軍はもちろん、韓国軍のいわゆる「キル・チェーン」で、発見し、韓国陸軍の砲兵や空軍の韓国版精密誘導爆弾で破壊するための措置が講じられる。

総じて、ソウルが火の海になる可能性は極めて低い。

 

被害がゼロとは限らないが

一方、全くの無傷にとどまる可能性も低いと言わざるを得ない。

このことは日本にも当てはまり、無傷ではいられないと考えるべきだ。ソウルに脅威が及ぶような状況であれば、米韓連合軍は臨戦態勢に入る。朝鮮半島の後背地である日本に横須賀や岩国など米軍にとって重要な基地が数多く存在することを勘案すれば、日本に脅威が及ぶ可能性は高いと考えねばならない。

この場合に日本として最も懸念すべきなのは、中距離弾道ミサイルによる攻撃と特殊部隊などによる破壊活動だろう。

弾道ミサイル防衛に関していえば、イージス護衛艦に搭載したスタンダードミサイルSM3による海上配備高高度防衛と航空自衛隊の防空部隊が保有するPAC3ミサイルによる低高度陸上防衛の2層で、かなりの程度のミサイルを迎撃できる態勢となっている。

一方、どのような防衛システムをもってしても迎撃の成功は、確率の問題であり、完全な防衛というものはありない。そこで重要なのは、それぞれのシステムが迎撃し、撃ち漏らした場合には更に迎撃を繰り返すこと、つまり何回迎撃できるかという点だ。

イージス護衛艦は、高度数十キロメートルから数百キロメートルでの迎撃が可能で、カバーする範囲も広く、日本海に2隻展開すれば、日本本土のほとんどが防護対象となる。

一方、第2層のPAC3がカバーする範囲は数十キロメートルであり、本土全体をカバーするためには膨大な数の部隊が必要になる。

現在、政府は、陸上型イージスシステムの導入を考えているようだが、これが実現すれば、海上イージスによる第1層、陸上イージスによる第2層によって、本土全体をカバーする他、例えば、政経中枢や原発などの重要防護対象には3層目の防衛を提供することになる。

一方、拉致問題や北朝鮮の工作船事件で明らかになったように、日本国内に潜入して何らかの破壊活動を行われる危険に対処する必要も自明だ。このためには、2つの意味で継ぎ目のない対応が不可欠になる。

第一に、平時から有事にいたるさまざまな段階に応じ継ぎ目なく対応を変化させていくことが重要だ。警察や海上保安庁の行う法執行活動を中心として対応する場面、烈度が高くなりこれに自衛隊が協力する場面、さらに武力攻撃に対して自衛隊が出動し、法執行機関や地方自治体と協力して国民保護に任ずる場面の間に継ぎ目があってはならない。

第二に、このように事態が推移していく間、警察、海上保安庁、自衛隊、そして地方自治体などの関係機関が密接に連携するという意味においても、継ぎ目のない対応が必要となる。この点、2015年に成立した新安保法制は、このような対応を可能とする上で重要な一歩となった。

それでも核放棄という目標を見失ってはならない

これまで、第一に、米国として北朝鮮に核・ミサイル計画の放棄を求めるために軍事的手段を含む諸施策を講じてきたし、これからも講じていくであろうこと、第二に、トランプ政権は、この目標を達成することを真剣に追求しており、その上でのリスクを最小限にしつつも、そのようなリスクを負うことを厭わないであろうこと、第三に、韓国や日本としても、朝鮮半島から核兵器をなくすという目標を達成するための努力を積み重ねてきたことを述べてきた。

万一、この目標達成に失敗し、国際社会が北朝鮮を核兵器保有国として認めるようなことがあれば重大な結果をもたらす。核弾頭とICBMさえあれば、どのような無法をも許されるという前例をつくることになり、核武装する国が後を絶たない世界になるからだ。

日本にとっては核兵器の使用を公言して憚らない隣国から、数十年、あるいは百年にわたって恫喝され続けることを意味する。そのような状態を次世代に引き継がせることはできない。唯一の被爆国であればこそ、日本は、不退転の決意の下、北朝鮮の核・ミサイル放棄に向けて、あらゆる努力をはらわなければならない。