アメリカの「対北朝鮮軍事的措置」、実はすでに始まっていた

そうか、あの演習が実は…
山口 昇 プロフィール

連続している抑止と実際の軍事力行使

ティラーソン国務長官は、昨年3月中旬、初の外遊先である日本と韓国で「(軍事的なものを含め)すべての選択肢がテーブル上にある」ことを明言した。
ここで重要な点は、軍事的な選択肢はオール・オア・ナッシングではなく、さまざまな水準と規模のものがあるということだ。

実際の破壊や殺傷をもたらさない措置を含めるとすれば、米国は、かなり前から北朝鮮に対する軍事的措置を講じてきており、いつでも高いレベルにエスカレートできる状態にある。

近年、米国が多用する言葉に「柔軟に選択される抑止措置(Flexible Deterrent Options: FDOs)」というものがある。FDOsとは、政治・経済・軍事に関する分野で、小規模ではあるが明確な措置をとることによって敵対的な相手にメッセージを伝え、攻撃的な意図を思いとどまらせることをいう。

軍事的なFDOsの具体的な行動は、戦闘機や爆撃機の飛来、演習の頻度や規模の増大、空母機動部隊の派遣など多岐にわたる。

特に、2016年9月に北朝鮮が核実験を行ってから米国の軍事的FDOsは本格化し、2017春以降より大規模で高い水準の措置が講じられている。

米国は、これらのFDOsによって北朝鮮の挑発行為などの抑止を図ると同時に、必要ならいつでも実際の軍事力行使にエスカレートできるという態勢を示してきたのだ。

2016年に行われた核実験の直後、米国がグアムに所在するB-1爆撃機を朝鮮半島に飛来させたのは、明らかに北朝鮮に対するメッセージだった。

同爆撃機は、2010年に米ロ間で締結された新戦略兵器削減条約により、核兵器を搭載できない仕様となった。核兵器搭載仕様のB-52、B-2爆撃機ではなく、あえてB-1を飛来させたのは、北朝鮮に対して「精密誘導爆弾やバンカーバスターなどの通常兵器でも十分に効果がある」ということを示威するためだった。

昨年年頭から、北朝鮮のミサイル発射および核実験がより挑発的になるにつれ、経済制裁などの非軍事的FDOsに加え、軍事的FDOsも高度化されてきた。

昨年6月には空母2隻を中心とする打撃部隊が日本海に進出し、日韓両国と共同訓練を行ったし、11月には米海軍が保有する空母11隻のうち3隻を西太平洋に集中した。戦闘機などを約90機搭載できる空母3隻を集中して運用するのは異例のことだ。

精密誘導兵器を見せつけるのもFDOsだ。昨年4月と10月、オハイオ級潜水艦「ミシガン」を釜山に入港させたのは、その典型と言える。同潜水艦はトマホーク・ミサイル154発を登載しており、また、特殊部隊を海中から潜入させることもできる。トマホークは弾頭重量約450キログラム、1500キロメートル以上の射程を持つ。

昨年4月6日、米国は、地中海に展開した艦艇から発射されたトマホークによりシリア空軍基地を攻撃した。この攻撃は、シリア政府軍が民間人に対して化学兵器を使用したことに対する報復措置であったが、米軍が公開した写真によれば、防護用の土塁の中にある航空機や燃料補給施設などのピンポイントの目標が59発のミサイルで正確に破壊されていることがわかる。

その1週間後、米国は、アフガニスタンでMOAB(Massive Ordnance Air Burst)と呼ばれる超大型爆弾を使用した。MOABの重量は9.8トンであり、炸薬量はトマホーク20発分にあたる。

北朝鮮はこれらの攻撃を強く非難しているが、米軍の攻撃力が正確で威力の大きなものであるというメッセージが伝わったことの証左ともいえる。

この他にも、例えば、兵器や通信システムの配置などに関する情報収集を目に見えて活発化するようなことも軍事的FDOsに含まれる。

このような活動は、北朝鮮に対して送るシグナルというだけでなく、エスカレートする場合に備えての準備行動でもある。それゆえ、より強力なメッセージ性を持つ。

 

「軍事的な圧倒」はブラフなどではない

冒頭、ティラーソン国務長官が軍事的な選択肢に言及したことに触れた。筆者がこの発言をブラフ(単なる言葉による脅し)ではないと受け止めたのは、マティス国防長官の言葉の重さからだ。

ティラーソン訪日・訪韓に先立つことひと月、2月5日にソウルを訪問したマティス国防長官は、核兵器の使用に対しては「圧倒的かつ効果的(overwhelming and effective)」な対応を行うと述べている。

周知の通りマティス国防長官は、海兵隊の第一線で現場を知り尽くしたオペレーターだ。特にイラク戦争を通じて最大の激戦地となったファルージャでは師団長として作戦を指揮した。

そのような実戦派が「圧倒的かつ効果的」というときは、使用する兵器やこれを発射する母体として艦艇、航空機、車両などのプラットフォーム、そして具体的な作戦要領とそれによって得られる効果が頭にある。

最近では「大量(massive)」のという表現も加わった。具体的な作戦参加部隊の規模が大きいことを念頭においた言葉だ。

昨年春以降、米国は多様かつ大規模な米軍部隊を北東アジアに展開してきた。3個空母打撃部隊が西太平洋に集中したことは前に述べた。これらの打撃部隊の指揮下にある潜水艦や水上艦艇、あるいはグアムから飛来するB-1爆撃機が搭載するトマホークだけに着目しても、数百発に上る。

これに韓国および日本に駐留する、米空軍および韓国空軍の戦闘機や両国陸軍が保有する地対地ミサイルや長射程砲を加えて考えれば、精密誘導弾の数は1000を優に超る。

1992年から94年にかけて朝鮮半島の情勢が緊迫した時に、これらの精密誘導兵器は存在していなかったことを勘案すれば、米韓連合軍の通常兵力による打撃力は過去四半世紀で著しく高度かつ大規模なものに変化したことが理解できる。

また、過去20年以上にわたって、北朝鮮の軍事情勢を監視してきたことによって得られた情報は、実力行使をともなう軍事的措置をとる場合に極めて有用だ。

特に、ソウルを射程に収める240ミリ多連装ロケット砲、170ミリ自走加農砲などの長射程砲、対空レーダーや対空ミサイル、高射砲などの防空兵器、指揮統制のための通信システムなどは、大規模な軍事行動に先だって制圧する必要がある。

マティス国防長官が「圧倒的かつ効果的」という際には、このような目標情報とそれに対して用いる兵器やプラットフォームが具体的に頭の中にあると先に説明したが、その効果とは、北朝鮮の軍事力の速やかな制圧であることは言うまでもない。

昨年春以来、西太平洋地域に展開する米軍は、単独での訓練を繰り返すほか、頻繁に韓国軍や自衛隊と共同訓練を行っている。これらの行動は、先に述べたFDOsの一環であると同時に、万一の有事に備えての準備という性格を併せ持っている。