「地方議員の年金復活」自民党の新法案が的外れすぎる

こんなことでは自治体は活性化しません
今井 照 プロフィール

欧米の選挙制度に学んでみては

ここまで見てきたような日本の自治体の現状を踏まえたうえで、自治体議員の選挙制度には工夫する余地があります。

まず、有識者のあいだでは「連記制」を導入してはどうかという意見が出ている。国政選挙では衆議院も参議院も(選挙区と比例代表という)二つの選挙制度が並立していて、有権者は実質的に2票ずつ入れています。これに対し、連記制は、一つの選挙の投票用紙に複数の候補者の名前を書く方式です。

欧米でよく見られるのは、議員定数と同じだけ投票する仕組みです。下の【図4】はドイツの自治体選挙の投票用紙(見本)です。×印が投票先。この自治体の場合、15の×がついているので、1人の有権者が15票を持っていて、ある候補者には3票(3つの×が並んでいる)、ある候補者には1票や2票、というようにそれぞれの判断で分配して投票するわけです。

【図4】ドイツの自治体議会議員選挙の投票用紙【図4】ドイツの自治体議会議員選挙の投票用紙(見本)
〔出所〕https://wahlen.hessen.de/kommunen/kommunalwahlen-2016/wahlsystem

仮に日本に導入するとしたら、最初は慣らしとして、1人3票とか5票から始めるのがよいでしょう。日本では多くの場合、選挙が終わってから議会の会派が作られるのですが、この連記制を導入すれば、選挙前から議員のグループ化が進むでしょう。

有権者にとっては、投票の判断要素が増えるだけでなく(無理に絞り込むことなく)、バランスに配慮した投票も可能になります。あるいは、この人だけは議員になってほしくないという候補がいる場合、その候補以外に×印を分散させることで、「マイナス投票」的な使い方をすることもできるかもしれません。

 

欧米の市町村議会には給与も年金もない

選挙制度論については、ほかにもさまざまなアイデアが出ています。が、そのほとんどは確たる根拠のない「制度いじり」に過ぎないように見えます。

特に、(国政に倣って)市町村議会の議員選挙に小選挙区制を導入する案は、ほとんど実現不可能です。たとえば、議員定数が30の自治体では、町の区画やつながりを配慮しつつ、30の選挙区を作る必要があります。ひとまず何とかできたとしても、その後の人口変化に応じて、選挙区の区割りを変更していかなくてはならない。利害が絡むとともに、混乱も招くでしょう。

首長と議員を別の選挙で選ぶ、現在の「二元的代表制」についても、このままでよいのかという議論があります。議員立候補者の中から首長候補者を指定する仕組みにすることで、二つの選挙を一体として施行すれば、憲法問題(=首長を議員と別に直接選挙することを定めた日本国憲法第8章の規定)を回避して、事実上の議院内閣制を敷くことも不可能ではありません。ただ、そこまでして得られるメリットがあるかどうかは疑問です。

もちろん、議会のあり方こそが直接的な問題です。平日の昼間に開催される議会に参加できる人はそもそも限られている。実際、ほとんどの市町村議会では、農業や建設業などの自営業者か、そこからリタイアした人、あるいは資産を持つ名望家層が議員の多数を占めます。

議員のなり手が少ないというよりは、議員になれる人が最初から限定されているのです。こうやって選ばれる人たちが、市民層から遊離しているのは至極当然と言えるでしょう。その結果、一般市民の関心がますます薄れ、投票率が低下するという悪循環が起きているわけです。

ちなみに、拙著『地方自治講義』(ちくま新書)にも書きましたが、欧米先進国の市町村議会議員のほとんどは無報酬です。交通費などの実費は出ているようですが給料のようなものはあまりない。つまりボランティアです。

イメージとしては町内会の寄り合いです。町内会の役員に対して生活を保障するような報酬が出ることはあまりない。だから町内会の寄り合いと同じように、欧米先進国の市町村議会も多くは夜間か休日に行われます。他に仕事を持っているとそうしなければ集まれません。

ここまで自治体議会や選挙の問題を見てきましたが、こうした現状のなかで、議員年金を復活させれば何か一つでも問題が解決するのか。「淡い期待」すら持てないと感じた方が多いのではないでしょうか。他の問題を放置したまま議員の年金だけ復活させたところで、自治体議会への不信感が増すだけではないかと筆者は危惧しています。

根本的な問題は、「融合型」の地方自治制度のもとで進められた市町村の大規模化・広域化と、「分権」の名を借りた「集権」化なのです。そのことにより多くの人が気づいてほしいと切に願います。

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