求刑は懲役6年…母親が無罪を訴え続ける「虐待事件」裁判の行方

「仮説」で起訴された悲劇
柳原 三佳 プロフィール

法廷に映し出された、ある写真

起訴から2年以上が経ち、刑事裁判の公判も10回以上を数えていたこの日、刑事弁護を担当する秋田真志弁護士は、当時2歳半だった長男Aくんの特別に激しい動きを立証するため、京子さんが撮影していた複数の写真を法廷で公開した。

実は、京子さんが逮捕されてから半年後、3歳になったAくんは「自閉症スペクトラム」と「注意欠陥多動性障害」という先天的な障害の合併症があると診断されている。

幼児期はその診断が難しく、Aくんが初めての子どもだった京子さんは、当時まだ障害には気づいておらず、ふと目を離したすきに家の中の家電製品などを次々と破壊するAくんの行動に戸惑いながらも、ケガのないよう気を使いながら懸命に子育てに取り組んでいたのだ。

 

秋田弁護士はいくつかの写真を書画カメラに映しながら、京子さんへの質問を続けた。

――これは、どのような状況を写した写真ですか?
「息子がキッチンの引き出しを台にして、シンクの上に上がっているところです」
――この写真は?
「スプーンを突っ込んで、壊してしまったMDコンポです」
――では、こちらは?
「息子が食器棚の中からカップなどを落としてしまったところです。棚の開きや冷蔵庫の引き出しなどは、目を離すと全て開けて中のものを出してしまうので、ストッパーを付けたり、手の届く引き出しには何も入れないようにするなど、対策はしていました」

写真の中には、Bちゃんが救急搬送された日の夜、現場検証に来た警察によって撮影されたものもあった。自宅の中はどの写真を見てもきれいに片付いており、実際に冷蔵庫の下段の引き出しには何ひとつ食品が入っていない。棚もAくんが手の届く高さより下の位置は全て空だ。

また、高いところから飛び降りるのが好きなAくんのため、床にはコルクマットが敷き詰めてある。それらの写真からは、京子さんが日ごろからAくんの安全に配慮し、懸命に子育てをしていた様子が伝わってくる。

このほかにも、Aくんが割ってしまった玄関の鏡、破ってしまったお土産の絵本、棚から落として壊れたテレビなどの写真が次々と映し出された。

こうした写真が数多く撮られていたのには理由があった。

大手電機メーカーに勤める夫の忠雄さんは海外出張が多く、留守がちだった。そんな夫にやんちゃな息子の成長を見せたいという思い、またポラロイド写真を撮るのが趣味だった京子さんは、写真を撮ってはプリントの白い枠の部分に、得意のイラストとともに日付やキャプションを添え、日常を記録していたのだ。