求刑は懲役6年…母親が無罪を訴え続ける「虐待事件」裁判の行方

「仮説」で起訴された悲劇

「仮説」によって起訴された母親の悲劇

「これは国家による虐待です!」

秋田真志弁護士がそう声を上げると、大阪地裁704号室は異様な緊張感に包まれた。

<生後間もない娘を虐待した疑いで逮捕、起訴された母親がいる。その根拠となったのは、「揺さぶられっこ症候群」。乳児を強く揺さぶることで、硬膜下血腫、網膜出血、が生じるとされるもので、近年、虐待の根拠として挙げられることが増えている。

しかし、世界ではこの症候群について「具体的な根拠がない」と批判的な声が上がっている。逮捕された母親には冤罪の可能性があるのではないか――。

1月16日に結審を迎えた裁判の行方を、ジャーナリストの柳原三佳氏が追った。>

長女が誕生した時に、年賀状用に撮った家族写真。4人そろって撮った最初で最後の写真となった。

2017年12月5日――――。

この日、704号室では、2014年に発生した「乳児虐待事件」の公判が行われていた。

法廷には書画カメラとモニターが用意され、事件現場となった自宅の様子や子供たちの日常を写した写真が、次々と映し出される。中央の証言台に立ち、弁護人から投げかけられる質問に少し緊張した口調で答えるのは、被告人の井川京子さん(仮名=37)だ。

傍聴席の最前列には夫の忠雄さん(仮名=34)が座り、紺色のワンピースに身を包んだ妻の後ろ姿を心配そうに見つめている。

京子さんが我が子への殺人未遂容疑で突然逮捕されたのは、2015年9月16日のことだった。生後1カ月半の長女を、殺意を持って強く揺さぶり、急性硬膜下血腫などの重い障害を負わせた、というのが被疑事実だ

検察が立件のよりどころにしたのは、「揺さぶられっ子症候群」という症例だ。英語では「Shaken Baby Syndrome」(略してSBS)とも呼ばれ、1970年代にイギリスやアメリカの医師によって提唱され、1990年ごろにかけて世界的に広まっていった。

簡単に言うと、乳幼児の頭部に、①硬膜下血腫 ②網膜出血 ③脳浮腫 といった3つの徴候が確認でき、なおかつ、交通事故や3メートル以上の高位からの落下事故の証拠がない場合は、SBSである可能性が極めて高いというもの。つまり、体に目立った傷がなくても、こうした診断をされた場合は、「一緒にいた大人による激しい揺さぶり」=「虐待」を疑うべきである、という理論だ。

 

本件の経緯については、すでに「現代ビジネス」で『揺さぶられっこ症候群を問う』①「乳児虐待の疑いで逮捕された母の、悲痛な叫び」(2017.11.21 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53525)②「それは本当に「虐待」ですか?二児の母が突然逮捕・起訴されるまで」(2017.11.22 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53528)でも取り上げた。

同記事でも指摘した通り、「揺さぶられっこ症候群」(SBS)理論は、近年、諸外国の医師らによって批判され、一仮説にすぎないことが確認されている。

また、イギリス、アメリカ、カナダ、スウェーデンなどではSBSを根拠に訴追された多数の事件について再審の見直しが進められ、「SBS仮説だけを根拠にした訴追は避けるべきだ」ということが定説となりつつあるというのだ。

SBS理論における海外の動きについては、改めてレポートするが、日本では今もこの理論に基づき、同様のケースで逮捕・起訴されるケースが後を絶たないのが現状だ。

生まれたばかりの赤ちゃんを母親が揺さぶって虐待し、瀕死の重傷を負わせる……世間から見れば許しがたいその犯行は、メディアにとっても大きなニュースとなる。