仮想通貨580億円流出事件で露呈したメディアとテック業界の深い溝

リスクと捉えるか、可能性に賭けるか
石田 健 プロフィール

STAP細胞の時もこうだった…

近年、メディアにテクノロジーや科学技術に関する専門知識を持った人材が不足しているという事実を如実に露呈させたのが、STAP細胞問題だ。

この問題では、論文や事件の顛末を検証するブログや個人ライターが大きな存在感を放ち、大手メディアよりも素早く正確に、事態の把握や分析をおこなった。

大学や研究機関の会見内容をそのまま報道するだけに留まった多くの大手メディアとは対象的に、科学リテラシーやニセ科学といった問題の背景についても積極的に解説するサイエンス・ライターに注目が集まる契機にもなった。

STAP細胞に関する記者会見の様子〔PHOTO〕gettyimages

最近でも、日本の科学政策や研究環境が抱える問題への無理解という意味では、京都大学iPS細胞研究所で論文不正問題が発覚した際、不正論文が掲載された雑誌の創刊に山中伸弥教授が関与していたという記事を共同通信が配信した問題がある。

雑誌の創刊と不正論文の掲載に関係がないにもかかわらず、あたかも山中教授の責任を追求するような記事が公開されたことは、話題性のある著名人を事件と不当に関連付けて注目度をあげようとしているだけでなく、そもそも研究や論文について理解が不足していると言える。

技術や研究開発、テクノロジーへの無知・無理解は、決してインターネットや仮想通貨に限ったものではなく、広くメディア全体が抱える課題である。

ビットコインやブロックチェーンなど、現在進行形で議論が進んでいる最先端の技術についてリテラシーを持っている記者がほとんどいないことは想像に難くない。

もちろんそれは、メディアの怠慢と一言で片付けられる問題ではない。そもそも、ある分野に詳しい人材であっても全ての技術について余すことなく理解している人はほとんどいない。

加えて、現在の大手メディアには、専門的知識を持った人材を育成する余力はない。TV、新聞、雑誌問わず多くのメディアが苦境に陥っているが、この状況で、新たに専門的知識を人材を採用・育成していくことができる企業はほとんどないだろう。

GoogleやFacebookなど巨大テック企業の登場で、メディアのビジネスモデルは大きな変革が迫られている中で、これまで以上の品質を求めることは、現実的に難しくなっている。

しかしながら、だからといってこの問題を「仕方ない」と片付けてしまうことはできない。

科学技術やテクノロジーについて、社会に適切な情報を届けることは、日本の科学政策を考える上でも、より良い社会を構築する上でも、メディアが抱える大きな課題の1つだ。