トヨタは自動車業界「100年に1度の破壊と創造」を生き残れるか

『自動車会社が消える日』の衝撃
梶山 三郎

新車開発の最先端では、宇宙開発などで用いられてきたシミュレーション技術(バーチャル・エンジニアリング)が不可欠になっているという。試作品を実際に作るのではなく、仮想現実の上で「つくった」試作品をあらゆる条件を入力して試すことで、工程数も開発日数もそしてコストも、驚異的に圧縮する開発手法である。

この画期的な技術で、日本はドイツに出遅れたと筆者は指摘する。これまで日本企業の「強み」だったものが、いまや「弱み」に逆転してるのだという。

日本は「開発セクション」の設計に不具合があっても、工場で何とか対応してしまう「現場力」が強く、日本の自動車メーカーの競争力の源泉の一つはそこにあった。いわば「匠の技」と言えるものだが、ドイツはこの「高い現場力」がなかった。だから開発セクションが「匠の技」に頼らない方法を編み出し、シミュレーション技術が長足の進歩を遂げる。

 

未来はすでに来ている

各メーカーの論評では、今のトヨタの経営陣に批判的なのが印象に残る。

わたしの小説『トヨトミの野望』では、莫大な広告スポンサーでもある巨大自動車企業の『トヨトミ自動車』を「忖度」して、トヨトミのマイナスになることを大メディアが報じないシーンを描いたが、本書では、ふだん全国紙や経済紙で読んだこともない、トヨタ内部で起きている「地殻変動」を目の当たりにする。

安全管理が厳しいはずのトヨタの本社地区に火災が発生して入社式が遅れたとか、最新鋭の工場が大火事になった原因がダクトの定期的な清掃を怠ったことだとか、豊田章男社長の意向を忖度したのか、かつて社長の「教育係」だった年長の相談役が副社長に返り咲くなど摩訶不思議な役員人事がおこなわれたり、意思決定が遅れていることなど、如実に語られている。

ネガティブな話ばかりではない。トヨタと提携したマツダの戦略の成功は、暗い話題が多い日本の産業界にあって、貴重なひとつの光明だ。10年ほど前まで経営危機に陥っていたマツダがなぜ、「スカイアクティブエンジン」を世に送り出すことができ、その後もヒット車を連発して復活できたのか、関係者たちへの綿密な取材によって、その「秘密」に迫っている。企業再生のケーススタディーとして読むことができるだろう。

『トヨトミの野望』は、日本の自動車企業が世界一になるまでの、企業内部で葛藤する人間模様を描くことで、その先にある未来を「予言」したフィクションだが、こちらは、100年に一度のパラダイムチェンジが起きている生々しい現場をとらえた、圧倒的なノンフィクションである。

本書は、未来がすでに到来していることを私たちに伝えてくれる。その未来が明るくなるのか、それとも暗いものになるのか、それは本書を読む読者の手に委ねられている。