長男が明かす、真屋順子さんが 「全身衰弱」で亡くなるまで

闘病17年の記録
週刊現代 プロフィール

死ねないから生きている

永六輔や色川武大、伊丹十三など、数々の才能と付き合ってきた矢崎さんでさえ、かつての盟友が次々と世を去り、生きる気力を失いつつあるのだ。世の中に「死ぬのは難しい」と考えている人は少なからずいる。

訪問介護会社「ぽけっと」代表でケアマネジャーの上田浩美氏が話す。

「生きる気力を失くすのは、70歳前後の元サラリーマンに多いですね。典型的なタイプが、オレが外で稼いでいるから、妻は家で家事をしていればいい、という男性です。

こういう人は、定年退職して仕事という社会的な役割がなくなると、生きる目的がなくなり、気力を失う。団塊の世代の男性に多く見られます。

すでに子供は独立していて、金銭的にも余裕が出てくると、奥さんのほうは自分で楽しみを見つけます。

一方、夫のほうも定年直後は山登りやジム通い、釣りなどを始めるのですが、それまでやっていないことだと長続きしません。そのうち、楽しみもなくなり、生きる気力をなくしていく」

それでも日常は続いていく。78歳の元大手通信機器メーカー勤務の杉浦幹夫さん(仮名)は、退屈な毎日を過ごしている。

「昔はゴルフをしたが、数年前から18ホールを歩けなくなった。長く糖尿病を患っていて、たまに検査に行くのが、一つだけ決まっているスケジュール。つまらない話だ。

日がな一日、『時代劇専門チャンネル』を見て過ごしている。先日は藤田まこと主演の『剣客商売』の再放送がやっていて、劇中に『老いさらばえた我が身一つ、無聊に苦しむ』というセリフが出てきた(「箱根細工」の回)。

まるでオレのことだよ。体のあちこちにはガタがきているけど、死ぬほどではない。ただ退屈に毎日を生きているだけ」

 

77歳の元団体職員・近藤辰夫さん(仮名)は、60歳で定年退職してから10年間は嘱託職員や顧問として働いていた。しかし、この7年は職についていない。妻には5年前に先立たれた。

「最近、何を食べてもうまくない。夕方が来ると、『また飯の時間か』と憂鬱になる。冬は毎日のように鍋で、寄せ鍋セットの具材を買ってきて、水菜やセリをぶち込むだけ。他の季節はマグロの刺身に常温の酒。毎日同じものを食べている。

たまにOB会の集まりがあり、声がかかるが、昔話をしてもつまらないし、カラオケになるからあまり好きではない。

でも、最近、これではダメだと悟ったよ。このままだと孤独死へ一直線だ。『カラオケ1番』という歌えるカラオケマイクをテレビ通販で買って、自宅で練習を始めたんだ」

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近藤さんはそこまで話すと、「うおー」と声を上げて泣き出し、嗚咽を漏らしたのだった。

健康で長生きすることは幸せなことだと言われる。しかし、それは周囲に人間関係や趣味、仕事があってのこと。生きがいもなく、ただ長生きするのは大変だ。

宗教学者で僧侶の釈徹宗氏が言う。

「医療技術の発展とともに、人間の寿命も延びてきました。その分、人生の密度が薄まっている感じはします。寿命が延びることによって、人間としての成熟度が上がっていけばいいのですが、どうやらそういうわけでもなさそうです。

仏教は苦しみをごまかしたり、先送りしたりせずに、真正面から対峙するように説いています。しかし、寿命が延びたことによって、苦しみを先延ばしすることが可能になった。

それが、ある年齢に達すると、一気に押し寄せることで、押しつぶされてしまう。一昔前の人たちよりも、生きづらい老後を送る人が増えているのかもしれません」

そのうえ、これからは「人生100年時代」が到来するという。さらに長くなる老後をどう生きるか、真剣に向き合う時代がやってきた。

「週刊現代」2018年2月3日号より