オシッコどころか、私は一度、お客さまのわんちゃんに足を噛まれたこともある。小型犬だったし、パンツの上からだったので流血するほどではなかったが、後から見たら、紫色のドーナツみたいな歯形がクッキリついていた。

その時も、「あーらごめんなさい。うちの子、噛みグセがあるのよ」と悪びれた様子もないお客さまに、あからさまに怒ることはできなかった。

「お客さまは神様」……とは言うけれど。

「お金を出せば何をしてもいいってわけじゃないだろ~〜〜‼」

と、内心叫びたくなったことがあるのも事実だ。

友達の「お店出したら流行るよ!」は要注意

「お客さまは、みんながいい人ばかりではない」

それは、飲食店経営を夢見る人には、必ず肝に命じておいていただきたいことだ。

残念ながら、店に来てくれるお客さまは、みんながみんないい人ばかりじゃない。楽しいことばかりじゃない。時にはとんでもない理不尽な目にあって嫌な思いをすることもある。それでも笑顔でいなければならないのが接客業というものだ。

そんなの常識だと言われそうだが、夢や理想で胸が膨らんでいると、そのあたりまえのことを忘れてしまうこともある。

お料理上手な人が友人を家に招いて手料理をふるまった時、こんなセリフを言われたことはないだろうか?

「美味しーい! お店出したら絶対流行るよ‼」

そんな言葉に、うっかりその気になってはいけない。

プライベートで友人をもてなすことと、お金をもらってお客さまに料理やサービスを提供する「仕事」とはまったく違う。

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仕事で料理を作るとなったら、食材費、人件費、家賃などの諸経費を合わせた原価計算をし、利益を出すことを考えなければならない。その日の気分や出来不出来に左右されず、常に一定のレベルのものを作らなければならない。お金を払って食べてくれるお客さまは、「美味しい」のハードルが上がるし、「不味い」と言われても文句は言えない。

疲れている時や、気が乗らない時でも店を休むわけにはいかない。嫌なお客さまにも愛想良くしなくてはならない。

料理が好き。人と接することが好き。だけど、「好き」だけではやっていけない

よほどの自信と覚悟がない限り、「仕事」にするより、ホームパーティーでも開いて友人に料理をふるまっているくらいが丁度いい。

料理本を出すほど料理上手で知られる折原さん考案の焼きカステラパフェも人気メニューだった。写真提供/折原みと

ところで、私が4年半で店を閉めた一番の理由は、シーズン営業の高原ではどうしても採算が合わず、赤字経営だったためなのだが、実は、もうひとつ大きな理由がある。

それは、「経営者の責任」というストレスだ。

そして、それを強く意識するようになったのは、オープン3年目のGWに起こった、ある「事件」がきっかけだった。