売れっ子ブックデザイナー・鈴木成一が手がけた「記憶に残る10冊」

すべては「面白がること」から始まった
鈴木 成一

あのタイトル、実は息子の手書きです

こうしたシンボリックなやり方の対極にある、説明的な装丁が『陰日向に咲く』です。著者である人気芸人・劇団ひとりさんに登場してもらい、主人公の暮らすアパートのイメージを表現しました。

タイトル文字は当時4歳だった息子に書かせたんです。一発目に書いたものをそのまま使いました。子供の文字と、子供のような、あるいは子供を真似た大人の文字って、全然違うんです。子供は雑念なく、一生懸命に書くからでしょうね。成長すると、息子の字も使えなくなりました。

編集者によっても装丁は大きく変わります。『スカートの下の劇場』は新しいことをやろうという気持ちが編集者に強くあって、まず、帯をつけていない。表紙には女性の下着の写真に、半透明のトレーシングペーパーを巻きました。

見えそうで見えない、見せたいのに見せたくないという両義性を表現したんですね。下着の歴史を通してセクシュアリティを説くという内容の衝撃性に加え、装丁も注目してもらえました。

本が売れると装丁も話題になり、ある種の流行になります。『金持ち父さん 貧乏父さん』は累計300万部以上売れ、同じような装丁の依頼を何冊も受けました(笑)。とはいえ僕としては、毎回、いち読者としてゲラを読み、まっさらな状態から出発しているだけです。

ただ、新しいものを見たいから、自分が見たいものを存在させようという姿勢は一貫しています。それはどんなジャンルの本でも同じ。まず面白がるところから始まる。いまだに落ち着きがなく、興味があちこちに分散する性分が幸いしているのかもしれません。(取材・文/砂田明子)

▼最近読んだ一冊

「内容に衝撃を受けました。森さんはマイペースなんて甘いものではなく、徹底して興味のあることしかやらない。一日に1時間だけ執筆、それ以外は全部遊び、まさに自分という未知を探求する。こういう生き方もある」
 

鈴木成一さんのベスト10冊

第1位『私の男
桜庭一樹著 文藝春秋(下の※を参照)
孤児となった10歳の〈花〉を若い〈淳悟〉が引き取り、2人は親子となった。禁忌を超えた愛を描く直木賞受賞作

第2位『白夜行
東野圭吾著 集英社 1900円
被害者の息子と容疑者の娘。交わらないはずの2人の周囲で凶悪犯罪が相次ぐ。映画、ドラマ化された長編ミステリ

第3位『半島を出よ』(上・下)
村上龍著 幻冬舎
北朝鮮の反乱軍が福岡を占拠。日本政府は福岡を封鎖する。銃撃や拷問が横行する街で、若者は決死の抵抗を開始した

第4位『疾走
重松清著 角川書店
兄の犯罪を機に、14歳の少年は地獄へとひた走る「主人公の背負う宿命を表現したかった」

第5位『スカートの下の劇場 ひとはどうしてパンティにこだわるのか
上野千鶴子著 河出書房新社
なぜ性器を隠すのか? 男女のナルシシズムの違いは? セクシュアリティの本質を暴く

第6位『教団X
中村文則著 集英社 1800円
「宗教の荘厳さ、得体の知れなさ、あるいは怪しさを装丁で表現したいと考えた」

第7位『ユリゴコロ
沼田まほかる著 双葉社
「表紙の絵は高松和樹さんの描き下ろし。不穏で秘められた世界観を出したかった」

第8位『陰日向に咲く
劇団ひとり著 幻冬舎
ホームレスを夢見る会社員など、不器用に生きる人々に光を当てた人気芸人の短編集

第9位『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学
ロバート・キヨサキ他著、白根美保子訳 筑摩書房(改訂版は入手可能)
お金を動かして幸せに生きる方法。'00年の刊行以来読み継がれるロング&ベストセラー

第10位『完全自殺マニュアル
鶴見済著 太田出版 1165円
「生きるための新しい自己啓発本。それをサダヒロカズノリさんのイラストで表現した」

『週刊現代』2018年2月3日号より