株高なのに、これから中小企業がバタバタ倒れる可能性…一体なぜ?

「事業継承」という問題にハードルが…
中沢 光昭 プロフィール

実態とかけはなれた「評価」に踊らされる悲劇

オーナーにとっては自分がいちから創り上げた会社を手放すのは、まさに一世一代の大勝負です。その交渉に集中するのはやむを得ないのですが、必要以上に交渉に時間をかけ、そのために会社を不在にする時間が多くなるのは決していいこととは言えません。

さきにも言ったように従業員はそうした様子を横目に見ていれば、気もそぞろになってしまうばかりか、社内全体が疑心暗鬼状態になり、結果として社内の結束が失われます。

さらに問題は交渉が続いている間は、人的投資設備投資、販促投資や研究開発などに対して経営者が消極的になりがちということです。新たな投資を控えれば、利益が一時的に上がり、それが会社の評価価格を何倍にも引き上げてくれるかもしれない、ということに気づくからです。

 

実際、こうした「非生産的」な努力の結果が現れ始めると、高値のまま売り抜けられる可能性は高くなるのも事実です。

そして、これはオーナーにとってはまさに願ったり叶ったりと言っていいでしょう。

しかし一方で、従業員にとってはなんのメリットもありません。もっと言えば会社が安値で売られても高値で売られても直接の実入りはなにもないからです。

それどころか、こうした本来持っていたその企業の実態とかけ離れた不自然な価格で買収された場合、それが高値であっても、逆に安値であっても、長期的に見れば、待っているのは悲劇だけと言っていいでしょう。

いまこそ、落ち着いて「事業継承」を成功させるとき

まず高値で売られた場合はどうでしょう。業績がその高値に応えなければ、新オーナーは納得しません。

少しでも調子が悪くなったり、市場環境が悪くなったりすれば、親会社からは「こっちは高値で買っているのだから何が何でも業績を上げろ!」というプレッシャーがかかります。

すると、不条理なまでに猛烈に働かされたり、あるいは給与を抑えられたり、リストラによって業績を押し上げようとされる危険性さえあるのです。

一方で、オーナーが経営に身が入らなくなったり、新たな投資の抑制によって業績の悪化が顕在化して、安値で売られた場合はどうでしょう。

新しくきた親会社からは「業績悪化中の会社のヒト」扱いをされることになる。給料はどんなに頑張っても親会社の水準を超えないし、組織の重要なポイントは親会社から来た人材に占められてしまうでしょう。

どちらに転んでも待っているのは悲惨な人生です。

もちろん、オーナー社長が妥協して負けた(?)気分になろうと、速やかに売却を決めて従業員もさっぱりと気持ちを切り替えてリスタートを切るケースもあります。

しかし、こうした事業承継問題に、本来であれば優良なまま身売りできたかもしれない中小企業に、起こらずに済むはずだった悲劇を起きる事態が増えつつあるのはたしかです。

大企業であっても重要なサプライヤーの中小企業がひとつなくなるとすれば、相応のダメージを受けることは充分考えられます。

せっかくの現在の株高相場が、巡り巡って日本経済の足腰を弱りかねさせないというパラドックスを抱えることにならないか。筆者はそれが心配でなりません。