株高なのに、これから中小企業がバタバタ倒れる可能性…一体なぜ?

「事業継承」という問題にハードルが…
中沢 光昭 プロフィール

長引く交渉で乱れ始める「社内の人心」

こうして長い期間にわたり売却に向けた交渉が続くことは、会社にとってなんのプラスにもなりません。

経営者が断続的に会社を不在にしたり、普段あまり会話もしない経理担当者と妙にこそこそと話し込むオーナーの姿を見ていれば、従業員も不信に感じ始めます。

「ひょっとしてうちは身売りするのか?」

「どんなところに売られるのだろう?」

と、勘の鋭い社員は感じ始めるでしょう。

人によっては「一応、何かあった時のために自分の価値を」と、転職活動を始めたりするかもしれません。

営業マンなら取引に結び付くかもしれない潜在顧客よりも、自分の面接のアポイントを優先させはじめるでしょう。

こうした状況では、仕事に集中できるはずもないのは明らかで、実際にもともとは業績のいい優良企業だった会社が、あっという間に普通の会社になってしまうこともあるのですから、困ったものです。

このような展開は、どこの業界でも起きる可能性があるのですが、いまとくに目立つのが、需要が拡大している医療系、介護系や、エンジニアの人手不足が進むシステム系や、同じく人手不足に悩む建築土木工事系の業界などのようです。

 

結局はすべての交渉相手に「撤退」されて…

筆者が体験した例ですが、医療業界の事業継承の案件でこんなケースがありました。

かりに「A社」としておきましょう。このA社、アベノミクスが始まる前まではおおよそ20億円程の株式価値でしたが、最初に購入を打診してきた同業他社のB社が提示してきた価格はなんと35億円でした。

オーナーは想定以上の高値に喜び、売却を検討しはじめたのですが、その矢先、別のC社から37億円で打診してきたことで、B社との交渉を一旦、ストップ。

M&A仲介会社の勧めもあって、「じっくり腰を据えて探し、この間に(少し前に進出した)地方都市の足場も固めよう。45億円以下だったら売らない」と決断。B社とC社を競わせるとともに、他にも候補がいないか幅広い業界から買い手を探すことになったのです。

ちなみに、筆者が協力した会社は、頑張って買いに行ったつもりで25億円を提示したものの、まさに瞬殺されてしまいました。

その後、B社、C社とも40億円までは追随してきましたが、それ以上の引き上げにはどちらも躊躇したため、交渉は暗礁に乗り上げてしまいました。

しかも、半年以上が経った頃、困ったことが起きました。進めていた地方進出における失敗の兆候が見え始めたのに加えて、A社のビジネスに関連する法令が、ネガティブな方向で改正される可能性が出てきたのです。

こうした動きを察知したのでしょう。買い手候補は一斉に「様子見をさせてください」と、蜘蛛の子を散らすように手を引いてしまったのです。

オーナーはすでに70歳になろうという年齢でしたが、一般的に見れば経済的には充分恵まれているはずなのに、表情がすっかり暗くなってしまったそうです。