廃校危機の女子校を救った校長が語る「人を動かす4つの法則」

制服改革はこうして進められた
漆 紫穂子 プロフィール

チャレンジにはリスクがつきものです。

制服変更のときもこんなことがありました。新入生の制服が決定したのち、制服を変えてほしいと懇願していた上級生も購入できるようにし、新旧どちらを着てもよいということにしたのですが、私あてに「うちは事情があって買えないから子どもがかわいそう。全員買えないようにしてほしい」という匿名の電話があったのです。これには心が痛みました。

100人いたら100人が喜ぶ改革はありません。だれかにとってうれしくないものになってしまうことはどうしても避けられません。しかし、それが最善だと思ったら心に痛みを抱えながらも前に進むしかないのです。反対意見には説明を尽くし、頭を下げ、それでも収まらない気持ちの矛先が私に向かうことを覚悟して進みました。

成果志向とリスク志向はどちらも必要なものです。成果だけ見てリスクを置き去りにすれば、危険が伴います。また、リスクにとらわれすぎると前に進めません。
「自分の考え方の傾向を知って、自分と違うタイプの人と協力ができれば、より良いものをつくり上げることができる」のです。

正しいことは小さな声で言う

理由 その人が嫌い 

人が動かない理由と対処法を三つあげてきましたが、それでも、何をやっても動かない人がいます。なぜでしょうか。それは提案者のことが嫌いなのです。

これが、私が体験した、人が動かない四つ目の理由です。

「この人が嫌い」という引き出しがいったんできると、その人物の発言内容もすべて「嫌い」=「反対」の引き出しに分類されてしまいます。孔子の言葉にも、

「君子は言を以って人を挙げず、人を以って言を廃せず」(君子は、言うことが立派だという理由で抜擢しない。人間として問題があっても、その人の話を聞かないということもしない)とあり、戒めています。

生徒にアンケートをとると、同じ言葉でも誰に言われるかによってやる気になったり、やる気がくじかれたりすると言います。

古今東西、何を言っているかより、「誰が言っているか」が大切なのです。

嫌われたら最後、すべてのことに反対されてしまいます。

私はこれで失敗しました。他校からやってきた若い教員という立場で、それまでの事情も理解していないのに、生意気な発言をしてしまったのです。

なかでも失敗したのは、過去を否定したことです。

当時の本校は校則が厳しく、髪型は3パターン、前髪の角度は90度になるよう、教員が定規をあててみるような学校でした。

 

学校に赴任したばかりのときに、前任校の先生から「あなたの学校は躾が厳しすぎて、親は行かせたがるが、子どもは行きたがらない」とアドバイスされたこともあり、「生徒指導が厳しすぎるから、もっと生徒の立場に立ったほうがいい」と意見を言ったことがあります。

しかし当時は卒業後の就職を目指す学校でしたから、社会常識やマナーを徹底的に身に着けて採用されるようにと、教員たちも必死になって育てていたのです。厳しく叱ってきらわれるのが好きな人はいません。それでも就職できないと生徒が困るから、という気持ちで厳しく指導していたのです

誰も怠けようとは思っていなかったし、みんな生徒のために一所懸命にやっていました。学校を取り巻く社会環境が変わってきていただけなのに、私は、これまでのやり方を全否定するような言い方をしてしまったのです。そのことで「何もわかっていない人、人の気持ちがわからない人」と、距離を置かれてしまいました。

一度、嫌われると、何をやっても裏目に出るので、人間関係の修復には多大な時間がかかります。焦ったことでかえって遠回りになりました。