いつの時代でも「若者の叩き方」を提示する、社会学者たちの功罪

問題を煽り、政府や広告代理店と共謀
後藤 和智 プロフィール

三浦は《学問は予測してはいけない。でも、マーケティングは予測しなきゃいけない》と言っていますが、山田が売り出されきっかけとなった『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999年)はまさにこの「予測」が占める割合が大きいものでした。

山田は同書の中で、親と同居する独身者である「パラサイト・シングル」(特に女性)がいかに親の金でリッチな生活を送っているか採り上げ、彼ら(彼女ら)の増加によって「親に寄生できる若者と寄生できない若者の格差」が拡大し、労働構造を歪めてしまうという趣旨のことを書いています。

なにせまえがきにあたる18ページにおいて既に《(引用者注:欧米では若者の経済問題と言えば貧困問題を指すのに対し)日本で若者の犯罪といって話題になるのは、パラサイト・シングルが起こす「猟奇的」な犯罪の方である》《近年起きる動機がよくわからない犯罪のかなりの部分が、パラサイト・シングルによって起こされていることも示唆的であろう》などと根拠を示さずに書いているくらいですから。

その山田の方針は編集部にまで影響を与えているのか、カバー折り返しには《三〇歳を過ぎても(略)リッチな生活を謳歌する気ままな独身男女——パラサイト・シングル。今の日本には、こんな連中が一〇〇〇万人もいる!》などと書かれています。

ネット上で話題になっている論客を気軽に商業出版デビューさせるような新書ならまだしも、ちくま新書、しかも1999年のそれに「連中」という言葉が出てくることは驚くに値します。

山田にとって「パラサイト」する若者への敵愾心を煽ることは「譲れない一線」なのか、2009年に刊行した『ワーキングプア時代』(2012年に『ここがおかしい日本の社会保障』として朝日文庫で刊行)においては、《生活保護で一生暮らしたいという大学院生》を採り上げ、《彼は、都内の一戸建てに親と住み、自家用車を乗り回す典型的なパラサイト・大学院生である》《「なぜ、親にパラサイトして車を乗り回しているやつに、私が払った税金が使われるのだ、許さないぞ」(引用者注:と山田は大学院生を叱った)》(『ここがおかしい日本の社会保障』pp.34-35)などと書いています。

ちなみに山田はこの直後《生活保護は、収入がない人に対して、お金を給付する制度ではないのだ》と書いていますが、収入がない人に対して、お金(と医療などの現物)を給付する制度です(むしろ捕捉率の低さのほうが近年問題になっています)。

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若者も社会のあらゆる問題も論じる

また2008年に出た『「婚活」時代』(ディスカヴァー携書)では、「少子化ジャーナリスト」なる肩書きの白河桃子と手を組みました。

特に白河は自身のパートの中で、いかに現代の若い男性が消極的で自分勝手であるかということを書いています。かつて「パラサイト・シングル」概念で女性を叩いていた山田と、男性を叩く白河が相互補完しているように思えます。

そして2013年に山田と白河が出した『「婚活」症候群』(ディスカヴァー携書)では、「官製婚活」の広がりを絶賛していますが、その「官製婚活」においては、民間婚活事業者による癒着、それが教育や女性に悪影響を及ぼすことが指摘されています(斉藤正美「経済政策と連動する官製婚活」/本田由紀、伊藤公雄(編著)『国家がなぜ家族に干渉するのか』(青弓社ライブラリー・89、2017年)第3章)。

さらに2005年まで遡ると、山田は当時の政府が先導していた「若者の人間力を高めるための国民会議」の有識者委員だったこともあります。

 

そのほか、山田の著作の中でも、『パラサイト社会のゆくえ』(ちくま新書、2004年)や『なぜ若者は保守化するのか』(東洋経済新報社、2009年。後に『なぜ若者は保守化したのか』と改題して朝日文庫、2015年)などは、若者に限らない、現代社会に関する評論を集めたものであり、この点においては山田は社会のあらゆることについて論じる「総合論客」としての役割も持っていると言えます。

若者を叩く新書で一山当てて、その後は継続的に若者を論ずる一方で「総合論客」として社会のあらゆる問題を論じ、さらには有識者として経済・社会政策に影響を与える——マスコミで話題になり、多くの「信者」を集めた論客の多くが、ネットやトークショーなどでファンと自分の世界に閉じこもる一方で、山田は間違いなくいまでも広汎に社会や政治に影響を与えている「社会学者」であると言えます。