知らなきゃよかった!医者は手術中に、実はこんなことを話している

覆面ドクターのないしょ話
佐々木 次郎 プロフィール

実は酒と麻酔は無関係!?

問題は(3)だ。手術にはふさわしくない不謹慎な話をするドクターがいるのだ。

「今日さあ、飲みに行こうよ」と看護師を誘って、手術が終わったときには看護師の手を握っていた強者もいる。

これはたまらんな、と思ったおしゃべりもある。

ある若い先生が部長に手術を指導してもらうことになった。その若い執刀医はカチカチに緊張している。執刀医のある操作が気に入らなかったのか、指導医の部長にスイッチが入った。部長は小声でこんなことを言い出した。

「お前、何であんな女と結婚したんだ?」

「はいっ?」

それから延々と「お前は女を見る目がない」というお説教が続いたのだった。

全身麻酔の場合は患者さんが眠っているから、スタッフ以外に聞かれることはないのだが、局所麻酔(部分麻酔=意識のある麻酔)のときにもこういう話をしてしまうドクターがいる。

不謹慎な話を手術中にするから、患者さんに投書される。教授や院長に呼び出されて厳重注意を受けるはめになる。ドクターのキャラによるが、日頃の心がけが悪いとまた繰り返す。

執刀医は真面目に手術しているものの、これは患者さんに聞かれてはまずいな、というケースもある。たとえばこんな場合だ。

 

血管を広げる手術だとしよう。予定の手術はほぼ終えているのに、予定外の血管も広げてあげようと親切心を起こし、その血管を広げたら血管が破裂してしまった。

「あっ、しまった。余計なことをするんじゃなかった」

こんな叫びを聞いてしまったら、患者さんは当然不安になる。

また別のケース。骨折が複雑で固定が上手く決まらない。執刀医は汗だくになりながら何度も何度もやり直し。手術が終わったとき、その執刀医はこう言った。

「もうやだ! もうこんなオペやりたくないっ!」

これも患者さんから苦情が来た。

局所麻酔で行う手術は、患者さんの意識があるので、実は患者さん自身も緊張している。手術中のおしゃべりは必ずしも悪いことではなく、患者さんをリラックスさせるために話しかけてあげることが大切だ。

でも「大丈夫ですか?」だけでは患者さんも疲れてしまうし、どう答えていいかわからない。一番良いのは患者さんと一緒に話をすることだ。

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冒頭で紹介したエピソードの患者さんは女性だった。これは全身麻酔の手術だったが、手術室に入るとき、とても緊張された様子だったのでこんな話をしてみた。

「どうです? ドラマで見た手術室にそっくりでしょ? でもこっちが本物なんですよ。ただ、ドラマと明らかに違うところがひとつだけあります。それは何でしょう? それは、この手術にはイケメンドクターが出てこないことです! 江口洋介とか坂口憲二とかいませんから」

局所麻酔にからめてこんな話をしてもよい。

「麻酔の効きが弱かったら言ってくださいね」

「おれ、大酒飲みだから麻酔が効かないって言われたことあるよ」

「どんなお酒がお好きなんですか?」と言いながら、好きな酒の銘柄などを話してもらって患者さんをなごませるのもよい。

ちなみにたくさん酒を飲むからといって、麻酔が効きにくくなるということはない。ただ「酒飲みは麻酔が効きにくい」と一般に信じられているので、麻酔が効かないときに責任を患者さんに転嫁できるのだ。

麻酔が効かないのは麻酔を施したドクターが下手だからなのだが、そんなときに患者さんが酒飲みだったりすると、「やっぱりお酒を飲んでいると、麻酔が効きにくいんですよね」と、自分の不首尾を棚に上げて、うまく逃げることができるのである。

いかがでしたでしょうか。

私、佐々木次郎と申します。「覆面ドクター」というタイトルにしたくらいですから、もちろんペンネームです。

この度、ひょんなことから、連載の機会をいただき、エッセイを書くことになりました。大学の教授でも何でもなく一介の医師です。満員電車に揺られて通勤し、居酒屋での一杯を楽しみに生きる庶民的なおっさん医師の視点で、本名では絶対言えないような、でも、「クスリ」と笑えるエピソードを書いてまいります。

皆様よろしくお願いいたします。